第2章 第2ラウンド

Ver.7.1/第9話

 魔界での戦いの第1ラウンドが終わった直後、Greenhorn-online内外問わずに様々な情報が溢れた。

 500陣営規模で振り分けられた無数のサーバーから、第2ラウンドに進出できる陣営が決まったこともあり、深夜であるにもかかわらず書き込みの勢いは衰えなかったのだ。

 その中には、三皇軍の敗戦を嘲笑をもって報じるものもあった。

 フィクサとサラシはハルマ戦が終わるのを待たず、何も言わずログアウトして消えていった。今後の予想としては、何食わぬ顔をして以前と変わらぬ態度でゲームを続けるか、二度とログインしなくなるかの2択だろうとセゲツは考えていた。

 どちらかといえば後者を選択する可能性が高いことも含めて。


「あー。やられたわあ」

 手も足も出なかった。

 第2ラウンドに向けての準備が始まるため、魔界が一時的に封鎖されるのに伴い、強制的に追い出された後もセゲツはひとりゲーム内に残り、感傷に浸っていた。

 直接対峙したコロシアムでの戦いで打ちのめされ、AIによる代理戦争でも完膚なきまでに叩きのめされた。

 フィクサやサラシと行動をともにしながらも、それなりにまっとうにプレーしてきたはずなのに、ハルマにかかわると違うゲームをプレーしている感覚に襲われる。

「いや。違うゲームをプレーしてるんだろうな。ってか、プレースタイルが違い過ぎて、理解できねーだけか……」

 メニューを開き、フレンドの項目を表示させる。

 登録するには互いの了承が必要だが、削除するのはどちらかの意思決定による操作が行われるだけで良い。

 セゲツは上から順にどんどん削除していく。

 フィクサ達と違って、ゲームを楽しんでいるフレンドもいるにはいるが、区別なく消していく。

 本当なら現在のキャラごと削除してアカウントを作り直したいところなのだが、1年近くもこの体で過ごしてきた。下手したら、睡眠時間を除けば、現実の体よりも、こっちの体でいることの方が長かったくらいだ。妙な愛着が染みついて、消すことができなかったのだ。

 それに、三皇の一員であった事実は消すべきではない気もしていた。

 ただ、全てを受け入れるには、少し荷が重すぎる。

 ゼロからやり直したい気持ちと、罪を背負う覚悟が混ざり、中途半端な決断となってしまったが、これがセゲツのできる精一杯であった。


 三皇のひとりとしてそれなりに知名度があったせいで、フレンド欄に並ぶプレイヤーの数も多かったが、それが重荷であり誇りでもあった。

 それを全て消し去ったことで、どちらも消えた。

 だが、ゲームを始めたばかりの頃に感じていた興奮が蘇った感覚も確かにあった。

 こうして、三皇のセゲツではなく、ひとりのプレイヤーとなったセゲツは次の行動に移る。

 公式サイトにある掲示板に向かい、次から次にハルマ陣営の情報を書き込み始めたのだ。

 不平不満怨嗟があってのことではない。

 ちょっとした仕返しという感情もないことはないが、それ以上に感じていたのは、「ハルマ達スゲェぞ!」という、純粋な興奮だった。

 色々思考が揺さぶられたせいで、すっかりハルマ達のファンになっていたというのが正解だろうか。

 ハルマ達のすごさを伝えたいという感情が昂ったせいで、手が止まらなくなったのだ。

 しかし、これによって、Greenhorn-online内に、ハルマ達の異常性がようやく知れ渡ることになる。同時に、伝えたのがセゲツであったことで、三皇による吹聴とも捉えられてしまい、かえって信ぴょう性は曖昧なものとなってしまったのは仕方のないことかもしれない。


「見たことないゴーレムだけじゃなくて、ゴブリンアーチャーとゴブリンソードがハルマ陣営にいた? とうとう変な薬にでも手を出したのか? あー。そういう夢を見たってことか。寝言は寝てないと言えないもんな」

「ハルマ陣営の拠点は城門と城壁はランク1で見張り台だけランク2にしてる。でも、本城は初期強度のまま? 使ってる指揮官は初期NPCのマーシラ? この情報ちょくちょく聞くけど、それで1週間耐え抜くとか、あり得ないだろ」

「この外堀に水が張られてるって情報、ハルマ陣営と戦った連中は必ず言ってるんだけど、大魔王特権でもあるのか?」

「は? 40000対10000でも負けるほどハルマ陣営が強かった? 逆だろ? それでも負けるほど三皇が弱かっただけでしょ?」


 これらの反応は、セゲツ個人に対するというよりも、三皇のひとりであるということに対するイメージの悪さによるものだ。

 しかし、これらの情報が真実であることを読み取る者もいる。

「いやー。あの4人が一緒になったら面白いことになりそうだとは思ったけど、予想以上ね」

「全く、これじゃ、オレ達がハルマと一緒に行くのを諦めたのがアホらしいぜ」

「それな! あー。こんなことになるのなら、あたしらのパーティに入れるんだったわぁ」

「何言ってるんだよ! ねーちゃんの所に入れるくらいなら、オレ達と一緒に行かせるっつーの」

 深夜だというのに姉弟で言い争っているスズコとチップだったが、こちらも辛うじて第2ラウンドに進出が決定していた。

 だが、ハルマ陣営と比べると、至極真っ当な戦いを制してのものだった。ランキング1位とはいっても、ポイントは1桁の陣営が乱立するドングリの背比べから、どの陣営が一歩抜け出すかのシーソーゲームを繰り返し、ギリギリトップを維持しての辛勝である。しかも、互いに同数で並んだ他の陣営が複数ある中、同数で並んだ1位の陣営は全て第2ラウンドに進出できるというルールに救われた格好だ。

 実のところ、ハルマ達から外堀に水を張れることを教えてもらっていなかったら結果は違ったものになっていたことを理解している。

 ハルマ達は4人とも情報の重さを軽視している傾向にあるため、味方陣営にも話していない情報も含めて全部話してしまう勢いだったため、村の住人の方からストップをかけたほどだ。

 

 こうして第2ラウンドへと進むことになるのだが、そこではハルマ達とは別のところで予期せぬ事態が発生することになる。

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