Ver.7.1/第10話

『掲示板にハルマさん達の軍勢にゴブリンアーチャーとゴブリンソードがいたって情報出てたんですけど、さすがにデマですよね?』

 第1ラウンド終了後、第2ラウンドに向けてサーバーの入れ替えが行われる。確定するまでに1日を要するので、現在は味方陣営しか魔界にいない。この間に第1ラウンドで点在していた味方陣地がひと塊にまとめられ、居場所を失っていた陣営の領土も復活する。

 ……はずだったのだが。

 さすがに第1ラウンドで153という圧倒的な陣営数になるとは思ってもいなかったので、そんなルールがあることをちゃんと把握しているプレイヤーの方が少なかった。

 味方陣営は全員引き継げるのだが、領土数には上限が決められていたのである。

 ただ、きっちり数が決まっていたわけではなく、第2ラウンド進出者が第1ラウンドで拡大した陣地の平均を算出し、その5倍までというものだ。

 故に、最終的に引き継げる味方陣地は50にも満たない数字となった。ただ、拠点の耐久値が高い方から振り分けられ、領土としてカウントされないプレイヤーの陣地自体も引き継がれる。また、第2ラウンドが開始されるまでの猶予時間で入れ替えも出来るようになっており、拠点や指揮官NPCのランクを参考にして総大将が決定することが可能だ。

 100近い陣営が魔界の戦いに参加するものの、領土争いには無関係となってしまうのだが、そのぶん、兵士や素材集めのサポートに徹することができるという利点もあり、戦いが苦手と言うプレイヤーにとっては、むしろ好ましい状況のようである。

 正直、ハルマ達もそちら側で楽しみたいのだが、総大将であるため無理だった。


『えーと、デマじゃないです、ね。どっちも、います……』

 ハルマ達も驚いたことなので、何も知らされていなかった味方が驚くのも無理はない。

 事の始まりは、家具職人がやって来たことで新しい家具のレシピを覚え、ゴブリンがホブゴブリンに進化したことにある。

 ただ、それだけではアーチャーにもソードにも強化されることはなかった――。

 

 宿舎に〈亜人族の寝床〉を配置し終え、効果が表れるのを待っている間も城下町での活動はいつも通り続いていた。

 その中には、生産工房を訪れNPCの士気を上げるという作業もあった。

 主にマカリナが担当していたのだが、第1ラウンド終盤に差し掛かったある時、突如生産職NPCに変化が起こったのだ。

「摩王様のために、我々も何かできないか日々努力しているのですが、この度、新しい試みに挑戦したいと決意を固めたところでございます。どうか、城主様に許可をいただけないでしょうか?」

「新しい試み?」

 マカリナの元にやってきたのは、生産職NPCのひとり。生産職NPCの見た目のパターンは3種類しかないので、正直見分けがつかないが、どうやらリーダー格のNPCであるらしい。

 そうして呼び出されたハルマと一緒に、クエストを受けることになった。

「何やったのさ?」

 突然呼び出され、クエストが発生した背景を探る。

「別に特別なことはやってないはずよ? 入ってすぐと、落ちる前にも顔を出してたくらいで。後は……、ハルが用意してた休憩室に、城下町で売ってたキビ団子を差し入れしてたくらい?」

 これにハルマは面食らった顔で視線を向ける。

「今、何て? キビ団子って聞こえた気がするんだが?」

「キビ団子って言ったのよ。ってか、ハル、知らなかったの? 封魔の一族の好物らしいわよ?」

「そうなの?」

 ハルマもキョトンとしてしまう。自分でプロデュースした城下町とはいえ、NPCの営みを全て把握しているわけではない。いつも通り、ソロで参加してたら、きっと知ることもなかっただろう。

 ただ、キビ団子を簡単に見つけられるかというそもそもの問題を、マカリナがあっさりすり抜けているということも付け加えておくべき事象ではある。


『魔界限定クエスト/職人達の気概』

【クエスト達成報酬/生産職NPCが成長する】


「NPCの成長?」

「何か、新しいスキルでも覚えるのかしらね?」

 ハルマもマカリナも生産職であるので、成長と聞いて思い浮かべるのはランクが上がった時に取得するスキルだ。〈鍛冶〉であればハンマーによる成形にアシストが入るものであったり、材料の熱管理をし易くなったりする。

 これらはパッシブスキルもあればアクティブスキルもあり、どちらも失敗する確率を下げたり、より上質なものを作るのに役立ったりと活用される。

 しかし、今回のクエストで要求されたのは、生産設備の改良であった。

 とはいえ、改良自体はNPCが行ってくれるので、プレイヤーがやることは、必要な素材を集めてくることだけらしい。

「これ、魔界限定の素材以外は、魔界だと採取できないものばかりねえ」

「ホントだな。ま、そんなにレアな素材じゃないから、すぐに採って来れるけど」

「そうね。むしろ、魔界限定素材が魔重石以外使い切っちゃってるから、時間かかりそうね」

「じゃあ。俺、山岳エリアまでひとっ走りしてくるわ。魔芯材はクエストに要らないから、あそこの方が数採れるしな」

「オッケー。あたしは戻ってそれ以外の集めてくるね」

「うい。よろしくー」

 採取はふたりにとっては日課のため、苦も無く終わる。

 結果。


『魔界限定クエスト/職人達の気概をクリアしました』

『クリア報酬として、魔界の生産職NPCが専用レシピを作れるようになりました』

『このレシピは魔界の生産職NPC専用のため、プレイヤーが伝授する必要はありません』


 そうして新たに作られるようになったのが、〈小鬼の弓〉〈小鬼の剣〉〈小鬼の鎧〉〈大鬼の刀〉〈大鬼の鎧〉〈屈強な大楯〉〈巨岩の大楯〉〈死者のレイピア〉〈死者の鎧〉であった。

 はて? と、思ったことであろう。

 小鬼がゴブリンを指す言葉であるならば、大鬼とは? 死者とは? と。

 実は、大鬼はオーガ、死者はスケルトンのことであった。

 つまり、ハルマ陣営には、ゴブリンアーチャーとゴブリンソード以外にも隠し玉が残っていたのである。

 武者オーガとスケルトンアーマー。更に、屈強な大楯はオークからハイオークに進化した個体が使うことでゴーレムとカッパーゴーレムの中間ほどの防御力を持ち、通常のオーガ以上の攻撃力を持つ個体となった。

 極めつけが、巨岩の大楯をゴーレム種が装備できることが判明したのだ。

 ただ、これらはNPCにしか作れない装備であるため小鬼系の装備以外は数が少なく、本城前に配置したモンスター群にしか持たせていなかったことで、セゲツの情報にも出てこなかったのである。

 要は、4万以上の軍勢に攻め込まれながらも、ハルマ陣営の真の実力は明かされることなく戦い抜いてしまったというわけだ。

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