Ver.7.1/第8話

「……は?」

 満を持して下された決定によって、三皇軍15000とチュウスケ軍18000に加え、遠征軍としてヨージの軍勢10000が駆けつけた。これがルール上、同時に駆り出せる最大戦力である。三皇本陣からはもう少し出せないこともないのだが、総本山を狙われるリスクがあるのは同じであるため、必要最低限は残しておくことにしていた。

 隣接していないエリアから援軍を呼ぶことも可能なのだが、同じタイミングで攻め込めるのは1つ離れているエリアまでだ。2つ以上離れていると到着が遅れ、増援という扱いになる。当然、離れれば離れるほど到着は遅くなり、あまりに離れすぎると戦闘に間に合わなくなる。また、兵数によっても進軍速度が変化するため、ヨージの拠点からは10000以上出すわけにはいなかった。

 今回、かなり無理をしてハルマ陣営までのルートを確保したせいで、三皇陣営の領土は間延びした歪な形になっている。そのため、同じタイミングでとなると、3つの陣営からしか戦力を出せなかったのだ。

 また、増援部隊は遠征のため士気が下がり、ステータスが落ちるというデメリットもあるため、今回は初手で最大戦力をぶつけて叩きのめすことにしていた。それでも、さすがに4倍近い戦力で1度に押し寄せれば勝てるだろうと踏んでいたのだ。

 しかし、いざ戦いが始まると、観戦する3人ともポカンと口が空くだけで、言葉らしい言葉が出てこない。

 ハルマ陣営の本城エリアの耐久値は、初日から変化がない。

 城門と城壁がランク1で本城は初期ランク、見張り台だけがランク2である。そして、軍を率いる指揮官も初期NPCのマーシラのままだ。

 状況を知らない第三者が見ていたら、三皇軍4万の迫力は凄まじいものがあっただろう。

 ベビーサラマンダーとアサルトマシンを筆頭に、レア種のモンスターがゴロゴロいるのだから圧巻だ。

 さすがに4万を超える数の兵なので、全てがレア種で構成されているわけではない。当然、集めやすい亜人系と獣系の割合が大きいのだが、コモン種のゴブリンなどよりアンコモン種であるオークが多いくらいになっている。

 睡眠時間を削り、小まめにログアウトを繰り返すことで回復の速度を少しでも早めながら1日の上限時間での活動を続けて集めた精鋭たちなのだ。

 

 ……なのだが。


「おい。ゴブリンアーチャーなんか、いたか?」

 フィクサは、堪らず声を絞り出していた。

「ってか、ゴブリンソードもいるんだが?」

 つられてセゲツも呟く。

「待て待て。そもそも、この城門の前にいるゴーレムは何なんだよ。オークの集団を相手にして1体で堰き止めるとか、おかしいだろ……」

 4万の兵がハルマ陣営に押し寄せるが、城門を塞ぐ3種類のゴーレムに堰き止められている。城門にたどり着くには橋を渡らなければならないので、どんな大軍勢であっても一度に進める数は減らされる。それは仕方ない。しかし、それでも大柄な体躯のオークが繰り出す攻撃を受けてもビクともしないというのがまずおかしい。

 そうやって攻めあぐねている所に城壁の上から次から次に矢が降り注ぐ。だけでなく、ゴーレムの後方から放たれる中級魔法によって、逆にどんどん殲滅される始末なのだ。

 城門を避けて城壁を直接破壊しようと試みているのだが、城壁の手前にある外堀には何故か水が張られ、水系モンスターが配置されている。

 外堀を越えて城壁を目指す間に、水中で攻撃を受け、城壁の上からこちらも矢を射られ、まったく城壁までたどり着けずにいる。また、普通のゴブリンも混ざっているのだが、こちらは何故か投石によって攻撃を仕掛けてくるのだ。

 そうやって陣形が横へ横へと広がり、隣の城門を攻め落とそうとするも、同じことが繰り返される。次の城門を狙っても同様だ。

 もはや陣形と呼べないほど軍勢が横に間延びして、城壁の上から放たれる矢の餌食になっていくだけとなる。

 それだけならまだしも、間延びして、攻撃が手薄になった城門からハルマ陣営が打って出てきたのだ。

 ゴブリン主体の戦力。されど、それはどう見ても武装を整えたゴブリンソードにしか見えない一団だ。

「ゴブリンソードって、確かホブゴブリンが武装したモンスターだよな?」

 三皇軍の中で、そんなことを気にかけているのはセゲツしかいない。セゲツも、訊いたところで知っているはずもないとは思いつつも、口にせずにはいられなかったのだ。

 ゴブリンが道具を使うのはわかる。しかし、そもそも魔界のフィールドでホブゴブリンなど見たことがないのだ。だというのに、ハルマ陣営の拠点から出てきたのは、ホブゴブリンが武装し、ゴブリンソードへと強化された一団としか思えなかったのである。

 驚愕と感嘆が混ざった感情のまま戦況を見つめていたが、このゴブリンソードの集団が出てきたことで、15分とかからずに敗戦は濃厚となった。

 三皇軍が、完全に分断されてしまったのだ。

 しかも、ゴブリンソードの軍勢は本来のゴブリンらしい統率を見せ、規則正しい動きで的確にこちらの戦力を削いでいく。

 数では圧倒的に勝っているはずなのに、局地的に見るとハルマ軍一色となっていく。

 この采配を初期NPCの指揮官が行っているのかという疑問も湧いてくるが、もはやどうでもよく感じてきた。

 フィクサもサラシも認めないだろうが、完敗なのだ。

 攻防戦が始まって、ハルマ陣営が攻め続けられても、耐え抜いてきた理由をまざまざと見せつけられ、セゲツはいっそ清々しく感じていた。

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