Ver.7.0/第43話

 モカが自分で掘った洞くつを見つけ、マカリナが桃を見つけたものの、そのまま上流に進むか悩んだ結果、上流に桃の木でもあるのか探索を続けることを選択した頃、ハルマは一足先に城下町に戻っていた。

 もちろん、見つけた悪魔聖典を使った教会を建設するためだ。

 空いている土地はあちこちに残っているが、悪魔教会をNPCの住宅街の真ん中に作ることには抵抗があったために、モカの作ったダンジョン型宿舎の近くを選択してある。

 兵士に関連する訓練所や装備品の倉庫を中心に配置してある関係で、特に空いている土地が多かったことも都合が良かった。他の場所だと、狭いスペースしか残っていないのだ。

 教会のモデルはあったので、可能な限り再現していく。ハルマの知っている教会の条件とは違う可能性もあるため、念のためにコピーすることにしていた。そうすることでデザインを考える時間を短縮するのも狙いである。

「あそこにあった悪魔像だけは代用品ないから、それでダメだったら諦めるか」

 ステンドグラス柄の窓を設置し、室内のイスの数をそろえ、燭台などのインテリア系も配置した後で、本棚も設置する。そこに見つけた悪魔聖典を置いたところで、アナウンスが表示された。

「お!? やった。ちゃんと悪魔教会になった。これで悪魔系のモンスターに何か影響出るかな?」

 サイズが大きくなかったことと、必要な建材がほとんどそろっていたこともあり、30分ほどで完成した。

 そんなタイミングを見計らっていたみたいに、モカとマカリナも戻ってきた連絡が入り、それぞれ話したいことがあるということで集まることになった。


「「「「へぇ~」」」」

 ハルマだけは一足先に戻っていたが、帰ってくるのを待っていたネマキと一緒に報告し合ったところで、言葉が重なる。

 新たに見つかった情報は、どれもこれもSNS等で出回っているものではない。

 それも仕方ない。運営としても、隠し要素として回を重ねるごとに徐々に見つかっていくだろうと考えていたものばかりなのだ。それが、この短時間の間に、次から次に見つかってしまったのだ。

「ってか何だよ、桃って」

「あたしに訊かないでよ。勝手に流れてきたんだから」

 ハルマの問いに、マカリナもぶっきらぼうに答える。一番困惑しているのは、彼女自身なのだ。

「中に桃太郎でも入ってるんですかねえ?」

 ネマキはマカリナに桃を見せてもらい、興味深そうにつぶやく。

「あ? でも、これ、若返りの秘薬って書いてあるよ?」

 桃の大きさにばかり目を取られていたが、モカがフレーバーテキストの一文に気づいた。

「ホントですね。でも、あたしらが若返って、何かあるんですかね?」

「俺達に年齢の設定なんかあるのか?」

「アカウント作るのに認証が必要とはいえ、聞いたことないですねえ。それより、NPCに使うんじゃないです?」

「なるほどねー。さすがネマキちゃん。で? どのNPCに?」

「それは……。誰ですかねえ?」

 そもそも、封魔の一族のNPCは年齢不詳の見た目なので対象がわかりにくい。加えて、若返らせたところで、何か変化が起こるのかも不明なのだ。

「魔界の特殊NPCなんて、ラヴァンドラ以外は、町長のムルチ、大工のファーン、軍団長のピナタくらいですからねえ」

 魔界で出会ったNPCを指折り数えながら振り返った直後、ハルマが何か思い出したようにピンと眉を跳ね上げた。

「あ……。そういえば、初期の指揮官NPCって、確か」

「あ~。あのおじいちゃんNPC達」

「言ってましたねえ。長い歴史がある魔界でも随一の実力を誇る猛将だった、って」

「そうだっけ? 三人とも、よく覚えてるねえ。おねーさん感心しちゃうよ」

 モカだけは首を傾げ、ラヴァンドラの説明を思い返していたが、途中で諦めたらしく頭を振ったかと思えば、素直に3人を褒め称える。

 他に桃を使う対象も思い浮かばなかったので、早速本城へと向かうことになった。


「それで? 誰に使うの?」

 本城の最奥、自軍のフラッグが掲げられた部屋の隣にある指揮官室に向かいながらマカリナが尋ねてきた。

「防衛戦以外しないだろうから、今の指揮官でいいんじゃないか? ってか、防衛戦に向けて設定も始めなきゃな」

 初期で紹介された指揮官NPCは3人。準備期間中に他にも増えているのだが、攻防戦は明日からであるので、まだ変更していなかった。実を言うと、とっくに優秀な指揮官NPCが見つかっているので、桃を使った結果、どのくらいの差が出るのかしか興味がなかった。

 ところが。

「えー? うちとしては、負けちゃう前に一度くらいはどんな攻め方するのかも見てみたいよ?」

「そうなんですか?」

 モカの言葉に納得する部分もなくはなかった。遅かれ早かれ攻め落とされる可能性は高いのだ。であれば、一度くらいは大々的に攻め込んでみたい気持ちも、わからなくはない。

「守りは、進化したゴーレムがそれなりの数になりましたから、攻撃的な指揮官を選んでみてもいいかもしれませんねえ」

 ネマキもハルマと同じような感覚らしい。

「うーん。悩ましいな」

 防御特化の指揮官に使って、魔界で少しでも長く遊べる可能性を広げるか。大きな花火を打ち上げる感覚で攻撃特化の指揮官に使うか。

「せめて、もうひとつ桃が見つかればねえ」

 マカリナが最初に尋ねてきたのも、そういうことだったようだ。

「何だろうな? そもそも、どうやって見つけたんだよ?」

「別に探してないわよ。さっきも話したけど、普通に川を遡りながら色々見て回ってたら、勝手に流れてきたのよ。そのまま上流を探してみたけど、あたしが行けた範囲だと桃の木らしきものは見つからなかったわよ?」

 マカリナにわかるはずもない。このアイテムを入手する条件は、ひとりでは満たすのは非常に困難なのだから。そして、ハルマにも気づけなかった。その条件を満たす手助けを、誰あろうハルマ自身が行っていたということは。

「問題は、桃ひとつで、どれだけの効果があるかですよねえ? もしかしたら、一点物の激レアアイテムかもしれませんからねえ」

「そっか。条件を見つけても再現できるとは限らないんですね」

 もしもそうだとしたら、安易に使うのも気が引ける。やはり、3人のうちの誰かひとりにしか使えないと考えるべきだろう。


 悩みに悩んだ結果。

 ソロだとできない解決方法で選ぶことにした。

 不思議なことに、桃を使わないで取っておくという選択肢だけはなかった。

「いきますよー。ジャーンケーン」

 ハルマが勝てば防御特化のマーシラに。

 ネマキが勝てば魔法攻撃特化のキーギスに。

 モカが勝てば物理攻撃特化のトーケンに。

 マカリナの掛け声で3人がポンと手を出した。

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