Ver.7.0/第41話
モカが単独でゴーレムの捕獲がてら各地の探索に出かけた直後、ハルマも与えられた役割を全うするため移動を開始していた。
スキルの取得や成長だけでなく、クラス追加を目指しレベルアップを重ねた結果、ハルマのDEXは1700を越えようかという数値に達している。
つまりは〈覆面〉を使いワーラビットになった場合、そっくりそのままAGIがその数値に置き換わることを意味する。これは、回避盾として全プレイヤーの中でもAGIが高い方であるシュンよりも1000以上も上の数値になる。
驚異的なスピードを手に入れる代わりに、脆弱なステータスは更に半分になるというデメリットもあるが、〈発見〉によってモンスターがどこにどれだけいるのかは把握できる。ハルマにとっては、避けて進むことは難しいことではない。
当然のことながら、これだけのAGIがあれば、片道3時間近くかかっていた距離も、大幅に短縮して到着することになる。
「さすがに速いな」
引き連れる仲間もハルマのスピードについてこれず、頻繁にNPCならではのワープを繰り返すことで遅れることなく合流することになった。道中、キャッキャと楽しそうにはしゃいでいたのはマリーくらいのものであろう。
モンスターの群れを避けるために多少の迂回をしなければならなかったが、可能な限り最短距離でひた走り、山岳地帯にやって来たのはモカの情報をもとに魔瘴銅と魔瘴鉄を集めるためだ。
モカの体感的な感想に頼った情報であるため、実際に採取率が高いのかは未確定ではあるが、期待値は高いと考えている。
「山岳エリアは確か鳥系だったよな」
森林エリアには虫系と植物系。つづく平原には亜人系、草原に獣系。荒野になって物質系が出現する。ここだけの話、森林エリアに植物系がいることに気づいている陣営は非常に少ない。
虫系と違って襲い掛かってくることがなく、静かに佇んでいるだけなので、〈発見〉が育っていないと見つけることが困難なのだ。というか、いることに気づけないのである。
エンカウント方式であれば偶発的に戦闘に突入することもあるかもしれないが、魔界では常に戦闘状態であるため、接触したとしても素通りできてしまうのだ。
そこにきて、山岳エリアである。ここでは、ハルマの言葉の通り、鳥系が出現する。鳥系のモンスターの強みは戦闘力よりも、偵察能力の高さであり、防衛戦において大きな働きを見せる。
強さ自体はレア種のファイアーバード以外は特筆するものがないため、無理して足を運ぶプレイヤーも多くはないようである。
ハルマも戦力補充よりも、ゴーレムを進化させるために必要な素材を集めることに意識は向いているため、どんどん岩山を登っていく。
「ホントに、こっちの方がよく見つかるな」
モカよりも採取ポイントを見つける能力が高いため、少し歩けばすぐに見つけることができた。そして、聞いていた通り、魔界限定素材の採取率は高い。今のところ、1つのポイントで1つか2つ見つけられる。他のエリアでは5~6か所に1つ見つかるかどうかなのと比べると、効率はかなり良い。
むろん、それもハルマやモカのように制限時間内に余裕を持ってたどり着かなければならないため、通常は大きな差とはならないはずだ。
魔瘴銅と魔瘴鉄だけでなく、魔重石も同じくらいの割合で見つかるため、かなりウハウハな状態になってきた。
そうやってどんどん探索を続けていたのだが、尾根を越えたところでマリーが何かを見つけた。
「ハルマ! あそこに、マリーが住んでた教会みたいなボロ屋敷があるよ! 懐かしいね」
マリーの指さす方向を見てみると、確かにマリーと出会うことになった教会跡のような廃墟があった。
「こんな所にも廃墟があるんだな。ってか、こんな僻地にあっても、3時間じゃ無理だろ?」
もはや、隣の陣地との境界線とも呼べる位置である。山岳エリア以外であればまだしも、ハルマが指摘する通り、普通の方法では制限時間内にたどり着くことすら困難な場所だ。
そして、そんな場所に、鼻歌混じりに乗り込んでいくハルマであるが、自分がおかしなことをしているとは微塵も思っていない様子である。
これまでもいくつか廃墟を見つけたことがあるが、ここは一風変わった雰囲気だった。今まで見てきたのは、廃村や廃城といった風情であったが、どことなく神秘的な気品が漂っている。人が暮らしている気配はないものの、廃墟と呼ぶには建物がキレイに残っているせいもあるだろう。
「とりあえず、入口の両脇にある石像はモンスターだな」
山間部の目立たない場所に建てられた小さな廃墟はひび割れた塀に囲まれてはいるものの、建物自体は扉も残り来る者を待ち構えているようである。
その扉の両脇に、翼を持つ悪魔の形をした石像が置かれている。
不気味なそれはしかし、ハルマが警戒しながら近寄っても動く気配がなかった。仮にハルマが〈発見〉のスキルを育てていなければ、モンスターであると気づけなかったかもしれない。
「森の中の植物系と同じ感じかな?」
襲い掛かってくることはなかったが、情報に出ていないモンスターであるので、サクっと捕獲しておく。思っていたよりも強かったが、引き連れている仲間が仲間であるので、苦戦することもなかった。
それよりも、石像モンスターのガーゴイルが消えた場所の方にハルマの興味は移っていた。
「悪魔教会? マリーの言う通り教会だったのか……」
小さな看板というかプレートが壁に埋め込まれていたのだ。そこに、ゲーム内文字が刻まれていた。これを読めるプレイヤーは、知っている限りハルマとチョコットだけである。
「これ、名前はアレだけど、ちゃんとした教会、だよな。ってことは……」
情報を公開したことで〈大工の心得〉も広まりつつあるが、教会を作ったことがあるプレイヤーなど多くはいない。目の前の建物が、教会の条件を満たしていることに気づけるものなど、ほとんどいないはずである。
そして、気づけるからこそ探す物がある。
「やっぱり、あった」
ハルマは教会内を徘徊するアンコモン種の悪魔系モンスターであっても気にかけず、本棚ばかりを見て回ったかと思ったら、1冊の本を手に取る。
「悪魔教会だけあって、こっちは悪魔聖典なんだな。ってか、悪魔なのに聖典使うのか?」
建物を教会として認定させるには、いくつか条件があるが、その中でも肝となるのは聖典を本棚に設置することなのだ。
更に気づく。
「魔界限定のアイコンがあるってことは……。持って帰れるじゃん、これ。城下町に教会作ってみるか」
当初の目的も忘れ、制限時間も残っているというのにさっさと転移で城下町エリアへと帰るハルマであった。
これがどういう結果をもたらすか?
敵対勢力にとっては、嬉しくないことが起こるであろうことは、想像に難くない。
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