Ver.7.0/第39話

 初陣を勝利で飾った勢いは止まらなかった。

 新たに支配下においた陣営からも兵を捻出させ、隣接する陣営を次々に撃破。途中、兵の回復を待たなければならない時間もあったが、初日の夕刻には周辺7つの陣営を攻め落とし、ヨージの陣営とも無事に合流することができていた。

「合計10陣営か。まずまずだな」

 フィクサも順調に領土が広がるのを満足そうに眺める。

 すでに隣接するエリアは全て手中に収めたため、直接本陣を攻め落とされる心配はなくなった。NPCの陣営は残っているが、最小限の警戒で事足りるため、まずは周囲のより大きな脅威を取り除くことを優先して放置している。

 不幸なのは、ログアウト中に彼らに攻め落とされた陣営だろう。

 ろくに魔界での戦いを経験することなく陥落してしまい、拠点を見知らぬプレイヤーに占拠されてしまっているのだ。

 攻防戦に敗れ〈征服〉された陣営の運営は、攻め落としたプレイヤーに奪われる。設定によって元々のプレイヤーに運営を継続させることも可能なのだが、別のプレイヤーを領主として派遣することも可能で、今回はヨージとチュウスケのパーティメンバーをテキトーに配置して協力させている。

 フィクサも、自分達が嫌われていることくらい理解しているのだ。簡単に裏切られることは想定しているので、可能な限りリスクは最小限に抑えたいのだ。自治権を奪っておけば、例え裏切られても領土と兵力の多くは確保できる。

 セゲツも、好意的に受け入れられるとは思っていないので、〈征服〉されたプレイヤーはこのままかかわることがなくなるか、ソロサーバーへと移動していくことになるだろうと踏んでいる。

 一方、不気味なのがハルマの陣営だ。

 こちらが周辺の領土拡大を進めている間、ハルマ陣営の周辺でも案の定動きはあったのだ。しかし、立て続けに攻められているはずなのに、一向に陥落する気配がない。

 自分達の手で攻め落としたいと思っているので、生き残るのは好都合ではあるのだが、如何に防御に徹した設定にしてあったとしても、不可解な現象ではあった。

「くそっ。さすがに、無関係の戦いは視聴できないからな。誰か、ハルマの所の戦いアップしてないのかよ?」

 大魔王に初めて黒星を付けるのは誰か。競い合うようにハルマを目指している陣営は多い。しかし、それも最初だけで、ハルマが耐えている間に、徐々に互いにけん制し合う形になり、現状は包囲網が形成されるだけで、小競り合いはみたいなものは続いているが、膠着状態に陥っているようだ。

 数で攻め落とすにも、碁盤の目状に配置されたエリアの隣接した陣営しか攻め込めない。ハルマ陣営周辺の勢力争いは、まずは隣接するエリアを誰が複数抑えるかという睨み合いを制しなければならない状況というわけだ。

 ハルマの陣営を攻め込めば、自分達の拠点を攻め込まれる。守りに徹しようとしても、ハルマ陣営を目指すプレイヤーは後を絶たないので、耐え切れずに攻め落とされてしまっている。これの繰り返しだ。

 本気で攻め落とすことを考えている陣営にしろ、興味本位でちょっかいをかけようと思っている陣営にしろ、ハルマの情報を得ていることはアドバンテージになる。

 仮に、その中に動画配信者がいたとしても、公開に踏み切るのは勝利を収めた後になることだろう。

「まあ、いいじゃねえか。そいつらがハルマに気を取られてる間に、こっちは一気に勝負決めちまおうぜ」

 スタートダッシュに成功し、碁盤の目状に振り分けられた陣営のマス目のうち、10を支配している。それでも、全体の数%という規模ではあるが、ランキング的には1位にいる。続く2位との差も6つ。ヨージとチュウスケを最初に従えられたことが大きく、すでに圧倒的な差が開いていると言える状況だ。

 最終的にランキング1位のプレイヤー陣営が次のラウンドの魔王として君臨するので、ハルマに勝つことは絶対条件には含まれない。

 だが、学校帰り、仕事帰りのプレイヤーも増えてきたのだろう。魔界の戦況は活発になり始めている。

 今までは、準備不足で警戒の薄い陣営を数の暴力で屈服させてきたのだが、ここから先はそうもいかないだろう。

 もっとも警戒しなければならないのは、〈同盟〉の広がり具合だ。

 ただでさえ悪名高い三皇を打倒すべく、一時的にも協力関係を広げる可能性はじゅうぶんにありえる。

 ハルマと同じように包囲網を敷かれるのは、ヨージとチュウスケ以外の援軍が期待できない以上避けねばならない。

 ならないのだが、魔界全体の地理において、彼らの陣地はほぼ中央に位置する。遅かれ早かれ、囲まれることは目に見えている。

 それでもランキング1位を維持するためには、可及的速やかに盤石の体制を整えなければならないのだ。

 しかし、ここで問題が起こる。いや、これにかんしては、最初から分かり切っていたことではある。

 これ以上陣地を増やしても、派遣できる味方プレイヤーがいないのだ。

 もちろん、自治権を認めれば良いだけの話ではある。あるのだが、〈売り込み〉を経由しての〈スカウト〉ではないため、裏切られる可能性が残る。現在トップを走っているからこそ、ハルマ同様標的になる立場になっている。

 虎視眈々と、追い詰められる立場になっているわけだ。そんな状況で、内部から切り崩されたら結束などない陣営である。

 一瞬で脆くも崩れ去ってしまうことだろう。

 フィクサも、それを恐れていることを、セゲツは近くにいるからこそ感じ取っていた。妙に焦っているのも、そのせいであると。


 こうして、綱渡りのまま三皇軍が勢力を広げる中、ハルマを包囲する陣営も入れ代わり立ち代わり勢力図を変化させていく。

 そうだというのに、どういうわけだか、脆弱であるはずのハルマ陣営の拠点が落とされることなく、攻防戦が始まり10時間が経過した頃、突如として大きなうねりとなって勢力図は一気に塗り替わることになる。

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