第4章 流れに乗る三皇
Ver.7.0/第26話
3人組の男性プレイヤーが見つけた洞くつの奥。戦闘が終わったところでその中のひとりが大袈裟に歓喜の声を上げた。
「よっしゃ! ドラゴンゲットぉ!」
三皇のリーダー格であるフィクサが満足気に声を上げた。むろん、この結果にはフィクサだけでなく、サラシとセゲツも同様に笑みを浮かべる。
魔界のフィールドの探索を続け、ようやく、というほどの時間もかからずに、かなりあっさりと発見したレア種のドラゴンであるベビーサラマンダーの捕獲に成功したのだ。
「見たか、おめーら。三皇にかかれば、激レアのドラゴンもちょろいもんよ」
フィクサの言葉の通り、ドラゴンはレアの中でも特に発見率が低く、プレイヤーの中で激レア扱いされている。とはいえ、正直、3人そろって戦う必要のない強さであったので、この1体だけで役に立つのかは怪しいところだ。
それもそのはず。ベビーサラマンダーはハルマのテイムモンスターであるシャムが生まれたばかりの頃に討伐できたほどの強さしかない。魔界ではレア種であっても、ランク自体は高くないのだ。
運営からは、レア種は強力な兵士になるという情報が発表されているので、期待値は高いものの単純に配置すれば良いというものでもなさそうである。
だが、実際の強さよりも、この3人にとっては、ドラゴンを捕まえることができたという事実の方が重要な意味を持つ。
「今日の配信はこの辺で終わるわ。また何か進展があったら再開するから待ってろ。それまでガンガン働いて、オレ様達への寄付を稼いでろよ。じゃあな」
言いたいことだけ言って、フィクサはブツリと配信を終わらせる。視聴者への感謝の言葉もなければ配慮もない。むしろ、そんなことを気にもかけないことで視聴者を増やしてきた男なので、当然の態度だ。
しかし、毎度のことながら、セゲツは内心、もう少し愛想良くしたらイイのにとハラハラしている。
「ひっひっひ。これで、また寄付が増えるぜ」
「ああ。完全に流れが来てる」
サラシの下品な物言いに、フィクサも満足そうな笑みを浮かべる。
このふたりが上機嫌なのも無理はない。
フラッグを獲得し、陣営が公開された直後にヨージとチュウスケという傘下に加わる知り合いを見つけただけでなく、それを配信で知らせたことで、思惑通り寄付が増えた。それも、一気に今までの倍近い額のゴールドが集まったのだ。
素材さえ揃えることができれば、本城エリアの全ての施設を最高ランクに強化することができるだけでなく、余剰分をヨージとチュウスケに回して、仲間の陣営の強化もできるほどだ。しかも、こうやってフィールドでレアモンスターや素材を探している間も、次から次に寄付が届いている。
「今回ばかりは、ハルマ様様だな」
サラシの言葉に、そろって笑い声を上げる。
ハルマに為す術もなく蹂躙されたことで凋落した三皇軍である。未だ視聴者として残っている者にとっても、敵対陣営にハルマの名前があったことで、リベンジのチャンスを得たと賑わい出したのだ。これには、一度は三皇軍を見放した視聴者も戻ってきているほどだった。そういう意味でも、笑いが止まらない。
「違えねえ。それに、あいつら魔界では勝つ気がないみたいだしな。名を上げるチャンスだぜ。クソ忌々しいチート集団を踏みつぶせると思うと、たまらねえな」
公開されている情報を見てみれば、ハルマだけでなく、モカ、ネマキ、マカリナと、超有名プレイヤーがそろって参加していることが判明した。三皇軍にとっては、ハルマだけならず、他の3人も合わせてコテンパンにされた過去がある。益々、無視できない集団であるとロックオンしているのだ。
「PVPじゃあ勝てる気がしねえが、こっちなら直接対決は回避できるからな。ちょっと距離があるのが難点だが……」
セゲツは復讐に興味はないが、どういう戦いであっても、ハルマに勝てるチャンスが転がり込んできたことに素直に興奮している。
「そうだな。あいつら、城壁と城門をワンランク上げてるだけだから、ザコ過ぎて近くにいる連中に真っ先に潰されそうだもんな」
セゲツの懸念に、サラシも同調してきた。ヨージとチュウスケは天が味方してくれているのか思えるほど近くに陣営があるため、いくつか協力して攻め落とせば、すぐにでも一大勢力として幅を利かせることができるだろう。
そうやって地盤を固めている間に、ハルマ陣営が他のプレイヤーに攻め落とされる可能性はかなり高い。如何に守りを固めて立て籠もったとしても、複数の陣営から一度に攻められたら容易には生き永らえられるものではない。
そもそも、籠城するにしてもハルマ陣営の拠点の耐久値は低すぎる。むろん、まだ準備期間の中盤であるため、回りを欺くために最後の最後、もしくは攻防戦が始まった後にでも一気に強化する可能性もあるとはいえ、上のランクになるほど強化が完了するまでに時間がかかるのだ。
どの道、攻め込む時には相手には情報が筒抜けになることに変わりはない。
ちなみに、フィクサがさっさと本城エリアの強化を終わらせようとしているのは、宣伝も兼ねた示威行為の一環だ。本来は、相手の油断を誘うために、ギリギリまで強化は待つタイプだとセゲツは思っている。
「何はともあれ、ハルマ達を潰す前に、こっちが落とされたらシャレにならねえ。どんどんレアモンスター捕まえようぜ」
言うが早いか、サラシはすぐさま行動に移る。
「それもそうだな。じゃあ、バラけてレアモンスター探しを続けるとするか。残り時間は大して残ってないから、配信できそうなもの見つけても無理して集まる必要はないからな」
フィクサも今回ばかりは真剣に取り組んでいる。いつもは、必死になることは格好悪いと手を抜くクセがあるのだが、最後のチャンスだということは肌で感じているようだ。
セゲツも魔界での結果が出るまでは付き合うつもりでいる。毒を食らわば皿まで、ではないが、ひとつの区切りとして、真面目に協力しようと奔走することになるのだった。
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