Ver.7.0/第25話

「ほえー。そんなこと出来るんだ」

 外堀に水を張り終え、城下町に戻ったところでモカとマカリナに遭遇し、何をしていたのかと訊かれたので、素直に答えると、ふたりそろって目を丸くされてしまった。

 ただ、モカは純粋に「すごいね!」という感心している反応であるのに対し、マカリナは「何やってんの?」という反応が強いだろうか。

 その証拠に、モカは目をキラキラさせながら尋ねてきた。

「ねえねえ、ハルちゃん。うちも穴掘れるかな? 今作ってるダンジョンに、地下迷宮も追加してみたいんだけど!」

「へ?」

「え? うちじゃ出来ない? それとも、何か特殊なスキルが要る感じ?」

「ああ、いや。たぶん、大丈夫だと思いますけど……。そうじゃなくて、地下迷宮なんて作るんですか?」

「ダメぇ?」

 ハルマの問いを否定的な意味合いだと間違ってとらえ、しょんぼりしてしまう。そんなやり取りを横目に、マカリナは愉快気にニヤニヤし始めた。

「ふふふ。ハルが突拍子もない発想聞かされてタジタジさせられるなんて、モカさんくらいだろうね。たまには、あたしらの気持ちを味わうと良いよ」

 いつもはハルマによってもたらされる想定外の角度から投げつけられる発想を、ハルマ自身が今まさに投げつけられている状況に、マカリナも楽しそうだ。

「どういうこと?」

 モカも、マカリナの言葉に不思議そうな顔になって首を傾げている。

「いえ。こっちの話ですよ。モカさんが作りたい地下迷宮だったら、俺の使ってる鍬よりも、シャベルの方が良いでしょうね。別にスキルも必要ないはずなんで、回復系アイテム作りに今から戻るんで、一緒に作っておきますよ。もしかしたら、ツルハシの方が良いかもしれませんけど、そっちはリナが持ってるから、手伝ってもらってください。ただ、地下を作れるのかは、やってみないとわからないですけど」

 鍬と鋤、鎌のレシピはスタンプの村を作った時、住民NPCからの依頼で取得している。ハルマはシャベルと話したが、本来は鋤のレシピで作れるものだ。だが、ゲーム内のデザインとして、鋤もシャベルも違いはない。

 ハルマは〈採掘〉で時々採れる化石から見つかる〈調合〉系のタネを育てるため、村の中に畑を作っている。農作業と言うには簡易すぎる作業であるため、農機具として使うのは鍬だけなので、鋤は持ち歩いていないどころか、クエストでNPCに渡す用に作った切りだった。

 町長から花壇のレシピを教わった時に、小さなスコップのレシピも教えられたので、時間はかかるが、それを使っても何とかなるかもしれない。

 通常、農機具系はフィールドでは使えない。逆にツルハシは農作業には向かないので、両方を持ち歩かなければならない。今回は、それが役立ったに過ぎない。

「ツルハシでも穴掘れるの?」

 ハルマの返答に対し、今度はマカリナが疑問を挟む。

「たぶん、魔界の特殊仕様だと思う。ちょっと効率悪いけど、使えたよ。もしかしたら、土じゃなくて岩なんかもあるかもしれないから、そうなるとツルハシの方が良いんじゃないかな? そういえば、プレオープンの時みたいに、こっちでも採掘ポイント見つかった?」

 ハルマはあまりフィールドに出られていない上に、出たとしても森の中を重点的に探索しているため、採取ポイントはいくつか見つけたものの、採掘ができる場所には遭遇していない。

「そういえば見つけてないわね」

 ハルマの問いかけに、マカリナもしばらく考え込むと、続けて口を開いた。

「ツルハシで地形変えられるってことは、もしかしたら、テキトーに岩壁掘っていったら、何か見つかるんじゃない?」

 何の気なしに発せられたマカリナの言葉に、ハルマはまたしても唖然とした顔を作ることになる。しかし、それも束の間。可能性は低いとわかっていながら、試してみたいという欲求が自分の中で膨らんでいくのを止めることができなかった。

 それは、言い出したマカリナも同じだったらしく、徐々に表情がニヤリとほころんでいく。

 それを横で見ていたモカは、口にこそ出さなかったものの、やっぱり似た者同士ね、と微笑ましく眺めているのだった。


 こうして、ハルマ達4人は、魔界でそれぞれ好き勝手に物作りに励むことになった。ネマキは最初に作り上げたスパリゾートホテルをグレードアップさせつつ病院というよりも療養施設に近いものを。

 モカは慣れないながらも大きな城型ダンジョン&地下迷宮をマカリナの手を借りつつ作り上げている。こちらは、使い道がない建物にしておくのはもったいないからと、兵士の宿舎を兼ねることになった。地下迷宮のあるダンジョンでゆっくり生活できるのかは定かではないが、基本モンスターのNPCなので、大目に見てくれることを期待するしかない。

 マカリナは、モカを手伝いながら、兵士強化のための装備品を一頻りそろえ終わると、フィールドで気になった場所をツルハシを使って調べている。もしかしたら、4人の中で一番忙しく働いているかもしれない。

 そんな3人をサポートしながら、ハルマも忙しく動き回っている。全てのプレイヤーの中で、もっとも建材系のアイテムを作り慣れている男であるし、〈調合〉の作業は魔界よりもスタンプの村で行う方が効率が良い。森の中を安全に探索できるのもハルマくらいのものである。

 もともと生産職であるハルマとマカリナは、スタンプの村と魔界を何度も往復して、城下町の発展に精を出していた。

 

 お気づきであろう。

 本城エリアよりも、城下町エリアの方が数倍も発展している陣営など、ここだけであろうことは……。

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