Ver.7.0/第27話

「瓦礫の撤去作業、終わったぞ」

 誰かと情報交換しているフィクサに、セゲツが報告する。

 フィールドでの活動時間は最長でも3時間であるので、日がな一日探索に出ることはできない。ペナルティスキルを取得しないギリギリの――超過しても余るほど――時間を毎日使える身分であるので、フィールド以外では魔界でやれることは極端に少なくなる。

 三皇の3人も、最初は通常サーバーに戻って自身が追加したクラスの強化やレベル上げといった地道なプレーに戻っていた。

 ハルマに負けるまでは、暇潰しと称してPVPエリアで見知らぬプレイヤーを囲んでは、視聴者と一緒になって非道な遊びを行っていたものだが、今では自分達がPVPエリアに入ったが最後、他のプレイヤーに執拗に狙われる対象になってしまっている始末。

 他にも色々と悪さを重ねた結果、運営にも次から次に手を打たれ、すっかり健全な集団に成り下がっている。

 むろん、元々、セゲツはPVPが好きではないため、同行しても「バカだな。こうやって高みの見物をするのがイイんじゃねえか」と、さも愉悦に浸っている雰囲気を作って関わらないようにしていたので、逆に安堵したくらいである。

 むしろ、どうして集団を維持しようとしているのか、理解できないでいるほどだ。

 運営に目を付けられている以上、今後も炎上商法的な方法で視聴者を増やすことはできないだろう。集団でいることで、却ってマークがきつくなっている側面の方が強いはずなのに、どういうわけか一定数のプレイヤーが集まってくる。

 正直、ただの寂しがり屋の集団なのでは? と、思っているほどだが、セゲツ自身も身に覚えがあるため悪く言えない。

「おう、ご苦労。とりま、町長NPCが話してた住宅、宿屋、宿舎、病院、公園は作っておいて損はないらしいわ。それ以外にも作れるみたいだが、効果がハッキリしないか、ただのデマか、まだ情報不足だな。ったく、使えねーヤツばっかだわ」

 城下町エリアの再建は、情報が出そろってからでも遅くないと判断して、後回しにしてきたが、効果がハッキリした施設だけでも作っておくことにしたところで、あれこれ探りを入れた結果、詳細不明という結論に達しただけのようである。

「まあ、だろうな。で? フィクサも何か作るか?」

「あ? オレはいいや。面倒臭えから、任せる。お前、こういうの嫌いじゃなかっただろ? そうだ。住人はガンガン増やした方が良いらしいから、その辺よろしく」

 そんなことを話した記憶は微塵もないが、好きか嫌いかと問われると好きな方なので鼻で笑いながらも「わかった。やっておくよ」と、軽く答えてしまう。断られることはないだろうという物言いであることも、若干ムカつくのだが、それも含めて慣れてしまっている自分が悲しい。

 こういうところが、フィクサに気に入られてしまうのだとは自覚しているが、性格に起因する部分なので、容易には変えられない。


「確かに嫌いじゃないが、得意ってわけでもないんだよな」

 サラシに続いて、フィクサも魔界を出て行ってしまったところで、セゲツはひとり広い城下町エリアを眺め途方に暮れていた。

 瓦礫は全て撤去したので、広々とした土地がどこまでも続くだけだ。

 残っているのは転移地点に施されている魔法陣と、そのすぐ近くにある町長NPCの滞在する建物。後は、各地に点々と配置された職人設備の置かれた質素な建物。他には湖がひとつあるくらいのものだ。

「移住者用の家は〈木の立て札〉で勝手に作ってくれるとはいえ、これだけ広いと何から手を付ければいいのか、わからんな」

 セゲツが現在体験しているのは、チュートリアルのないゲームのようなものだ。ハルマと違い、ゲーム内で家を建てたことなどない。フィクサと違い、視聴者から巻き上げたゴールドで拠点を買っているわけでもない。

 今まで、運営から与えられてきた世界の中で、時に感心し、時に驚愕し、時に放心しながら遊んできただけである。自分で世界を作りたいなど、考えたこともないのだ。

 手始めにやれることと言ったら、〈木の立て札〉をとりあえず設置することくらいのものである。

「なんだ、良かった。最初から図面のパターンが選べるのか」

 手頃な場所で〈木の立て札〉を使ってみると、設定のメニューが開かれた。そこにはすでに、いくつかの図面が登録されており、住居向け、店舗向けなどの中から選択できるようになっていた。

 小サイズの建物しか作れない都合上、似通った間取りのものばかりだが、セゲツのように不慣れなプレイヤーにとってはありがたい仕様だ。

「店作って何売るんだ? ってか、サラシもフィクサも店番なんかやらないだろ? オレだってそこまでヒマじゃねえし」

 NPCが生活するという初歩的な前提を理解できていないため、店を作った先のことを想像できない。

「とりあえず、店作っても無駄だろうから、家を作れるだけ作っておけばイイか。ガンガン住人増やせって言ってたし」

 こうして初期設定の住居を登録した〈木の立て札〉をポンポン並べていく。

 しかし、これは何もセゲツに限った話ではない。他のプレイヤーの城下町でも、同じような光景を頻繁に見ることができる。

 厄介なのが、素材だけはフィクサの呼びかけで大量に集まっており、他のプレイヤーよりも、多くの住居を建てることができたせいで、出来上がった住宅街は、同じ作りの建物がずらりとならぶ、異様な光景になってしまったという点だろう。

 しかし、もっと厄介なのが、その光景を見もせずに、メニューを通して住民が増えたという結果だけに満足することになった点であろう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る