Ver.7.0/第23話

 ネマキの協力を取り付け、病院造りが本格化した。

 とはいっても、スパリゾートホテルに比べると小規模なものだ。建物の基礎部分はすでにハルマが整備していたので、その上にネマキが建材を並べていくだけである。ただ、ホテルを作る際に余った建材や家具を回すらしく、ハルマの想定していたものよりも、豪華な病院にはなりそうだ。

 小規模な住宅は〈木の立て札〉を設置するだけでNPCが作ってくれる。設定も最初に行うだけで済むので、瓦礫の撤去だけで作業は終わる。しかも、ハルマの場合は〈大工〉スキルで〈じょうぶな木づち〉を使えるため、瓦礫も素材として回収できるので楽なものだ。

 住宅が増える毎に住民も増え、住民が増えることで住宅を作るNPCも増えていく。職人設備のある工房に設置してある〈素材箱〉に素材を入れておくだけでNPCが建材化の作業もやってくれるので、軌道に乗り始めると、見る見るうちに住宅街が出来上がっていた。

 それでも、中規模、大規模な建物はハルマ自身で建てなければならないので、限られた時間でどこまでできるのか、読めない部分であったのだ。

 病院も、建てるだけでも時間を取られると考えていたので、その作業をネマキにやってもらっている間、ハルマは回復系のアイテムを補充するべく魔界を出ようとしたが、そこでふと足が止まる。

「帰る前に、外堀の水が残ってるのか、確認してからにするか」


 城下町の北門に向かい、本城エリアに入る。

 外堀を確認するだけなら、城下町エリアの東門から出てシャムに乗って走るのが早いのだが、フィールドでの活動可能時間はまだまだ残っているとはいえ、節約できるのならしておきたいし、本城内の様子も見ておきたかった。

 初期設定として、大工NPCとでも言うのか、本城エリアの強化を担当するNPCのファーンに外観をどのタイプにするかは選ばされた。そのため、イメージボード的な意味でどのような城なのかは知っている。

 ただ、実際に見て回ったことはないため、どこが主戦場となるのか、どこがウィークポイントなのか、といった情報は持ち合わせていない。それでは、指揮官NPCに指示も出せないことに気づいたのだ。

 急ぎ足で本城内を巡り、全体像を把握して回る。

 まだ初期ランクの城だけあり、中身はスカスカだ。おかげで、見回りもすぐに終了となった。

「これはこれで、空いてる土地が広くて戦い易そうだな」

 自分達が戦うのなら、モカやネマキの高火力を発揮させるには向いているとさえ思えた。ただ、今回はAI任せのモンスター同士の戦いとなる。指揮官NPCの嗜好とモンスターの編成で干渉できるとはいえ、戦いが始まった時には結果が決まっているような戦いとなる。

 この広い土地を活かすのは、今の戦力では難しいだろうことは容易に想像できた。しかし、逆を言えば、自分達の方向性としては、本城エリアを強化して守りを固めるよりも、誘い込んだ上で一掃できるモンスター編成を目指した方が正解な気がするのだった。


 ハルマは続いて城壁に足を運ぶことにした。目的地は、城壁の上に設置されている見張り台だ。

「見張り台とは名ばかりの質素な櫓だな」

 初期ランクよりひとつ上の強度にしてある城壁。こちらは、思っていたよりも頑丈そうになっており、簡単には破壊されそうにない。

 一方、その上に設けられた見張り台は、城壁よりもちょっと高い位置に足場があり、申し訳程度の屋根があるだけの簡素なものだった。

 見張りNPCもいるにはいるが、粗末な装備品を身にまとい、暇そうに地平を眺めているだけである。

「望遠鏡とか双眼鏡みたいなアイテム、ないんだっけな。見張り台は、少しでも上のランクにしておくか?」

 魔界における見張りの役割は、実はかなり大きい。それもあって、見張り台もランクアップ可能なのだ。

 他陣営の侵攻は、途中はある程度ショートカットされるものの、相手陣営の拠点から距離をおいてのスタートとなる。その侵攻をいち早く見つけ、指揮官NPCに報告することで、防衛の準備も万全のものとなるのだ。

 発見が遅れると、その分だけ城下町で控えている兵士の集合が遅れ、本城の守りが手薄になってしまう。プレイヤーであればスクショ機能を使ってズームすることも可能なのだが、NPCではそうもいかない。

「うん。やっぱり、実際に見て回って良かった。色々と参考になったわ。後は……」

 城壁の上から外堀を見下ろす。

「お? ちゃんと残ってる」

 エルフの水瓶から放水したまま、外堀に薄っすらと溜まっているのが確認できた。しかも、この時、ハルマの目には別の発見も映っていたのだった。

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