Ver.7.0/第15話

「じゃあ、行ってくるねー」

 最初に済ませなければならない設定が終わり、ようやく自由に活動できるようになったところで、モカは早速フィールドに向かっていった。

「あんまり無理しないで下さいよー。死んだら、全部パーですからね」

「わかってるー」

 モカの方向音痴の度合いを知ってしまったので若干の不安はあったが、〈ドアーズ〉の時と違い、マップに進行方向の矢印が表示される上に、転移も自由なので素直に見送る。

「いってらっしゃーい」

「いってらっしゃいませー」

 モカを見送った直後、ネマキはすぐに言葉を続けた。

「それじゃあ、リナさん。わたし達も行きましょうか」

「わかりました。じゃあ、マカロン出しますね」

 元々、ネマキも魔界特有のモンスターの大集団を相手に暴れ回ることを目標にやってきたこともあり、早速フィールドに向かうことになっていた。ただ、ネマキとモカでは根本的に戦い方が異なるため、別々に行動することにしていた。

 対して、ネマキとマカリナのふたりは共通点が多い。それもあって、プレオープンの時もパーティを組むことがあったほどだ。

 ただし、今回は前衛で壁役をやってくれるパーティメンバーがいない。そこで、フィールドで活動する時はマカロンに盾になってもらことになったのだ。互いに火力は申し分ないが、片や魔法特化プレイヤー、片や生産職プレイヤーと非常に打たれ弱い上に、立ち上がりが遅いのだが、超大型テイムモンスターであるメカゴーレムのマカロンが加わることで、不安は大幅に解消される。

「ところで、ふたりはクラス、何を追加したんです?」

 ハルマは結局、時間が足らずにクラス追加は間に合わなかった。連日、様々な誘惑を振り切り、レベル上げに時間を費やしたのだが、魔界滞在中にテスト期間を挟むためゲームにばかり時間を使えなかったのだ。結果、38までしか上げられなかったのである。

 対して、ネマキはプレオープンの頃には40を超えていたはずなので、何かしら追加しているはずだ。

 ちなみに、モカもレベル40を超え、クラスを追加している。

 系統的にはチップやシュンと同じナイト系のクラスなのだが、モカ以外に追加しているのを聞いたことのないデビルナイトというレアクラスであるようだ。

 ダークソウルというパッシブスキルを有し、敵を倒せば倒すほど自己強化されるという、いかにもモカにお似合いのクラスである。この自己強化は、戦闘終了時に解除されることなく一定時間継続するため、益々モカの破壊力が上がったと言えるだろう。

 ナイト系のレアクラスとしては、このデビルナイト以外に、サエラの追加したマジックナイトも見つかっている。

「あたしもハルと一緒で、レベル上げ間に合わなかったあ。もうちょっとなんだけどね」

「リナも間に合わなかったのか。やっぱり、急にレベル40にしないとダメって言われても困るよな」

「ホントよねえ。ネマキさんは、確か40超えてましたよね?」

「わたしはもう少しで45ってところですね。クラスはサモナーを追加しましたよ」

「「え?」」

 ネマキの思わぬ告白に、そろって目が点になる。

 業火の大魔導士と称されるほどの魔法特化プレイヤーなのだ。何かしらレアなクラスを追加しているとは思ったが、サモナーというイメージは全くなかった。

「あら? おふたりには、教えていませんでしたかしら?」

「「え?」」

「わたし、一般的な魔法使いじゃなくて、精霊魔法とでも言いましょうか、そんな感じの魔法職なんですよ」

「精霊、魔法? そんなのあるんですか?」

 ハルマが首を傾げるのも無理はない。ネマキ以外に使っているプレイヤーがいないのだから。

「わたしが勝手に呼んでるだけですけどね。イメージ的には、チョコットさんがアイスドラゴンを憑依させて戦うのに似ていますかね。わたしの場合はイフリートを召喚して、魔法の威力を上げているんです」

「あー! それで本気出した時って、見たことないエフェクトが出てるんですね。何か、あたし達の知らないバフ系スキルがあるんだとは思ってましたけど、召喚魔法の効果だったんですね」

「そうです、そうです。サモナーのクラスが追加できたので、今まで自己強化にしか使えなかったイフリートを直接召喚できるようになったんですよ。まあ、そうは言っても、自分で派手な大魔法を使いたいタイプなので、色々試している段階です。今のところ、ちょっとした合わせ技が使えるようになった程度ですけど」

「あ、あの……。そんな大事なこと、俺らに話しても良いんですか?」

「そうですよ! 秘密にしておかなくて良かったんですか!?」

「それ、おふたりが言います?」

 ネマキは、呼び出されたばかりのマカロンを見上げ、続いてハルマの周囲で寛ぐ多くのNPCに視線を向ける。

「「あ……」」

 自分達の情報に無頓着なのは、ハルマもマカリナも変わらないのだ。そのことに思い至り、ふたりとも、苦笑いを浮かべて視線を宙へと泳がせるのだった。

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