Ver.7.0/第14話
「新たな摩王を迎えるというのに、貧相な場所しか用意できず、申し訳ない」
ラヴァンドラに案内されてたどり着いたのは、大きさだけは立派な城、だったであろう瓦礫の山だった。
一応、外壁の基礎らしき部分は残っているので全体像は何となく把握できるが、控え目に表現しても廃墟だ。
「建物、残ってないじゃん」
モカもポカンと口を開けて周囲を見渡す。
「我らは一族の未来を憂え、独自に活動しているものでしてな。人数も少ない上に、魔物どもだけでなく、本来は同胞である封魔の一族からも命を狙われておるのですじゃ。ここも、つい先日襲撃を受けて、この有様なのですじゃよ。それでも、魔瘴を防ぐ封魔の結界だけは、何とか維持できております」
「なるほど。完全に破壊された状態が、これってことね」
ハルマも唖然としながら眺める。これを修復するのは骨が折れそうだと思ったが、その辺はNPCに任せることができるようである。
「おお、丁度良かった。再建を頼んでおいたファーンが戻ってきたようじゃ。今後はファーンに指示すれば、補強もやってくれるじゃろう。ただし、補強するには素材も資金も不足しておるので、摩王様に調達してもらわなければならぬのじゃが……」
ファーンというのが、本城の修復や強化を担当するNPCだった。ただの廃墟だった本城エリアも、目の前であっという間に再建されていく。
こうして、最低ランクの本城、城壁、城門、見張り台が半分ほど出来上がり、改めてハルマ達は玉座の間へと案内されることになった。
以降、ラヴァンドラは玉座の間に常駐するようになり、魔界での案内役となる。位置的には、宰相が近いだろうか。また、わざわざメニューから公式サイトに飛ばずとも、魔界でのルールを教えてくれるようになった。
そして、ファーンに続いて、ムルチとピナタというNPCが紹介された。
ムルチは城下町を取り仕切る町長NPCで、城下町にかんする基礎情報を提供してくれるようである。彼に訊けば、基本的な施設に必要な条件を教えてくれるとのことだった。
ピナタは軍団長となるNPCらしい。ただし、役割的には軍団長というよりは、集めたモンスターの情報管理や編成を行うためのNPCである。
そして、このタイミングで、封魔の一族が持つ従魔の秘伝を授けてもらえた。これによって魔界のモンスターを捕獲し、戦わせることができるようになるのだそうだ。
続いて兵士モンスターの簡単な説明を受ける。
本城の規模とランクによって兵士の上限数が決まっているため、編成を怠ると、集めた順で自動に上限一杯まで詰め込まれるだけで、方向性も強さもメリハリのない軍勢になってしまう。加えて、攻城と防衛は違った戦い方になるというのに、上限数は合わせての数字であるので、どちらを優先するかでバランスも変わってくる。
また、AI戦を指揮するNPCは別にいて、プレイヤーが選択できる。
初期設定で選択できるのは3人で、いずれもかつては名高い猛将として大軍を指揮していたが、寄る年波には適わず現役を引退した老将で能力値は低い。
「最初にいるのはSTRタイプ、INTタイプ、VITタイプですね。指揮官NPCのステータスがそのまま思考パターンになるっぽいです」
STRタイプの名はトーケン。物理攻撃主体で攻め込むタイプ。
INTタイプの名はキーギス。魔法攻撃主体で攻め込むタイプ。
VITタイプの名はマーシラ。守りを重視するタイプであるようだ。
こちらは、攻城と防衛でそれぞれ別の指揮官を設定しておける。指揮官NPCごとにステータスが決まっているとはいっても、数値ではなく、ランクとして表示されている。
トーケンだとSTRとAGIがEランクである以外はFランクとなっている。キーギスとマーシラも、似たり寄ったりのステータス構成だ。
後々、他のプレイヤーのエリアを配下にしてからは、そちらの設定も受け持つことになるが、丸投げすることも可能なようである。
「とりあえず、攻め込む予定はないから、防衛戦重視のVITタイプだけでいいんじゃない?」
「だな。プレオープンの時と同じで、拠点の発展具合で選択できるNPCも増えていくみたいだし、すぐに交代することになるだろうしな」
基礎的な設定をラヴァンドラの進行で済ませていく。ちなみに、この時間は魔界の滞在時間にカウントされず、存分に悩むことが可能だ。
城主プレイヤーを誰にするかに始まり、自陣として認められた際に獲得するフラッグのデザイン、再建途中の本城の外観デザイン――性能に差はない――と、兵士の初期配置、などなど。あれやこれやと相談しながら1時間近くを要することになった。
「けど、本当に俺が城主で良いんですか? このメンツなら誰が城主でも目立ちそうですけど」
「いいの、いいの。うちはハルちゃんと一緒なら楽できそうな上に面白そうだと思ってついてきただけなんだから」
「そうですねえ。わたしも、一度くらいはちゃんと大魔王の配下になってみたかっただけですし……。そ、れ、に。いつもMPポーションの類を融通していただいているので、体を使ってご奉仕しようかと、エヘヘヘヘヘヘヘ」
「ネマキさん、何言ってるんですか……。ハァ……。まあ、いいんじゃない? 正直、ハル以外だと、玉座で落ちるの忘れちゃいそうだし」
「「「確かに……」」」
こうして、初日の魔界での活動は、このまま穏やかに始まったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます