Ver.7.0/第16話

「ゴールドはプレの時と違って返ってこないけど、支払いに必要な額もだいぶ少なくなってる……。で、素材はあんまり変わらない感じだな。こっちで集めるより、戻っていつもの採取やった方が良いか」

 ひとり残ることになったハルマは、一先ず本城エリアのランクアップに手を付けることにした。

 とはいえ、ネマキも話していた通り、攻防戦が始まると、真っ先に集中砲火を受けて落とされる可能性は高いので、最高ランクまで上げるかは悩みどころだ。プレオープンの時のように、自身でも強化の作業が行えればいいのだが、強化にかんする作業は全てNPC任せに変更されている。

 攻め落とされて誰かの配下になってからも、居続けることは選択肢として残っているが、最後まで付き合うかとなると、途中で抜け出す可能性の方が高いと思っている。そうなると、本城エリアよりも城下町エリアの方に力を注ぎたい。

「何はともあれ、素材集めだな。本城エリアだけでじゃなくて、城下町の方であれこれ作るにも必要だし。モカさんなんかは、第2ラウンドまでは残りたいって話してたから、ある程度は強化しないとだよな」

 魔界のフィールドでしか採取できない素材もあることはわかっているが、そちらはマカリナに頼んである。ネマキと一緒に出掛けたとはいえ、彼女も根は生産職なので、忘れることはないだろう。

 魔界フィールドでの連続活動時間は3時間と限られるので、先に出ていった3人の情報を貰ってからでも遅くはないだろうと、魔界から戻ることにした。

 

「基本的にランクの低い素材しか使わなさそうだから、すぐに集め終わるかな?」

 スタンプの村に戻り、採取ルートを思い浮かべながら独り言ちる。

 魔界で採取する場合、上限数は決められていない。これは、単純に制限時間の関係で、無制限に集められないからであろう。対して、通常サーバーで採取を行う場合、1日の上限数が決められている。これは、サービス開始時から変わらず350のままだ。

 日常的に何かしら職人として作業しているので、素材や材料のストックは豊富にある。しかし、ハルマが作るものは世間で言われている中級から上級と呼ばれる装備品が多いので、低ランクの素材は使わない装備品も出始めていた。

 調合で作れる消費アイテムであれば、幅広く使うので蓄えている素材も多いのだが、こちらは魔界の城下町造りには使えない。AI戦で負傷した兵士の回復にポーション類を使えるとはいえ、自然回復がメインとなるらしいので、急を要しない限り、それほど重要視されないことだろう。だいたい、1万を超える軍勢にいちいちポーションを配っていられる余裕などない。

「〈調合〉系は手持ちの素材で足りそうだから、鉱石と木材系をメインに集めるか。建材系の材料も、こっちで作るよりお手軽な感じだし……。とはいえ、作れる種類が多くはないから、こっちから持っていかないといけない物も多いか。あ、プレオープンの時って、料理も食べてたよな? 食材って、魔界でも採れるのか?」

 城下町エリアに移動し、町長であるムルチに魔界専用のレシピをもらっておいたので、必要になる素材も確認できた。

 生産職系のスキルを取得していないプレイヤーも作れるとあって、初歩的な武器防具ばかりが並んでいる。〈錬金〉〈調合〉用のレシピも、似たようなものだ。

「あれ? MPポーションのレシピはないんだな。まあ、こっちから持って行けるから、問題ないのかな? でも、魔界のNPCも作れないってことだよな? ってことは、その辺は自然回復任せか」

 おそらく、抽出機が必要な作り方しか出回っていないため、除外されたのだろう。生産職として初期の生産設備だけで作れるものがチョイスされている感じである。

 ハルマは必要な素材をピックアップすると、低ランクの採取場所をメインにめぐるために、初期エリアを中心に走り回る。結局、初日は魔界に戻ることなく、久しぶりに採取で時間を使い切ってしまった。

 いつもは高ランク素材を集めるために〈鑑定〉を活用していたが、やることはさほど変わらない。選ぶ対象がレア度の高い物から低い物になっただけである。それでも、上限一杯まで必要な素材を集めるために、手を抜かずに〈鑑定〉して回った結果、いつも以上に時間がかかってしまったのだ。


 翌日も、魔界にこもるよりも先に、集めた素材を材料に錬金したり、建材を準備するのに時間を取られ、本格的に魔界で活動を始めるのは、3日後からとなったのだった。

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