第3章 寄せ集め

Ver.7.0/第11話

 9月が終わる3日前になってから、公式サイトに魔界の情報がアップされ、10月に入ってすぐに魔界が正式にオープンすることが告げられた。

 ハルマの印象としては、プレオープンの時にチーフプランナーの白石が話していた通り、全く別物のコンテンツだなというものだった。

 同時に、このルールでは〈魔界の覇者〉になるのは無理そうだという諦めと、プレオープンの時とは違った面白さがありそうだというワクワク感が沸き上がっていた。どちらかと言えば、ワクワク感の方が強い。

 プレオープンの時も生産職の役割を担えるのが自分とマカリナしかいなかったこともあり、だいぶ自由にやらせてもらえたので、スタンプの村とは違った拠点造りが楽しめることは知っている。特に、住人の増え方が村とは違うので、発展にともなって活気づいていく様子を観察できるのは面白そうだ。

「職人スキルなくても職人作業できるようにしてるってことは、生産職の分野が大事ってことだもんな。でも、あの時と違って、兵士は自分で集めないとダメなんだろ? 採取にばかり時間使ってられないんだよなあ……。まあ、さっさと負けてサーバー移ることになるだろうから、本格的にあれこれ試すのは、それからかな」

 ログイン直後にサイトに情報がアップされたこともあって、家の中で使い魔のオリーブを通して確認していたのだが、同じように村の中にいた住人からメッセージが届き始める。

「ん?」

 ページを読み込んでいる内に、次から次に通知が届くので、一体何事かと途中で手を止めるハメになったほどだ。


『魔界、一緒に行かないか?』

『魔界、一緒に行けない?』

『魔界に同行させていただけませんか?』

『よくわかんないから、魔界、一緒に行ってー』


 チップ、スズコ、ネマキ、モカ、多少の差異はあるものの、見事に同じ内容が重なっていた。

「この時間にそろってるって、珍しいな」

 この後も、チョコットやテゲテゲなどから声をかけられたが、今回は魔界でも配信が可能であったため、そのふたりには丁重に断りのメッセージを送っておく。

 問題は、住人からの誘いであるが、今回に限っては簡単にチップを選ぶことは憚られた。

 そのため、一度集まって話をする必要を感じた。


「やっほー、久しぶり。ありゃ? チップちゃんとスズコだけじゃなくて、ネマキちゃんも? 珍しいね」

 最後にやってきたモカも、その場に集まっているメンバーを見て、すぐに察したようである。

「あら? モカ姉様もハルマ様に頼ろうと思ってたんですね。ところで、本題に入る前に訊いておきたいんですけど……」

 モカの直前にやってきたネマキは、挨拶を軽く済ませるとすぐ、ハルマに視線を向ける。

「はい、何でしょう?」

 パジャマを思わせるユルイ恰好のネマキだったが、その視線はどことなく鋭さが宿り、怪訝としたものに感じられた。

「いえ……。しばらく会わないうちに、とはいっても、10日くらいのものだったはずですけど、また賑やかになっているようなので……。ご紹介いただけますか?」

「あ!? ああ……」

 ネマキの視線は、ハルマから、更に後方で好き勝手やっている仲間NPCへと移っていた。中でも特に目立つのが、自身の回りに水をまとい、その中をくるくると泳ぎ回っているマーメイドのアクアであろう。確かに、ここ最近レベル上げで村を出ていることも多く、ネマキやモカとは面と向かって会うのは久しぶりであった。

「それ! あたしも知らないんだけど?」

「あれ? スズねえにも言ってなかったですっけ?」

「ゼレアムのことをオレに教えたのだって2日前なんだから、ねーちゃんにも教えてないだろ」

 アクアのことは翌日には知らせていたが、ゼレアムのことを教えたのは確かについ最近のことである。

「そーいや、そうか」

 チップの胡乱気な視線を受けて、苦笑いで誤魔化す。


「マーメイドのアクアと、街灯のゼレアムね。いよいよ街灯まで仲間にするようになったか……」

 アプデ後に妙な流れで仲間になったアクアとゼレアムを紹介すると、スズコは呆れたように声を上げた。

 ただ、スズコと一緒に来ていたミコトの方は、まだそわそわとしたままだ。

「ね、ねえ、ハルマ君? その、ふくろうの使い魔ってショップでも見たことないんだけど、どこかでもらえるの?」

 どことなく期待に満ちた目でおずおずと尋ねてきた。

「あっ! いや、これは……。使い魔ではあるんですけど、スキルの一部というか、

なんというか……。説明が難しいんですけど、簡単には手に入らないと思います、よ?」

 何しろ、全ての大陸の森の守り神と盟約を結ばなければならないのだ。目立つ使い魔なので、仕舞っておきたいのだが、パッシブスキルの発動条件のため、出しておかなければならない。

「そっかあ……。やっぱりレア物だったかあ。ざんねん」

 ミコトも予想はしていたらしく、口調ほどには落ち込んだ様子もなかった。

 ただ、ミコト以外のメンバーには、別の意味で興味を引いたようである。

「え? それって、スキルに関係してたのか?」

 ふくろうの可愛さに着目していたミコトだけでなく、チップ達もクリッとした目で首をカクカク動かすオリーブをジッと観察し始める。

 課金アイテムは、初期の頃から変わらず、戦闘面やプレイヤーの強化に影響を及ぼすものは販売されていない。使い魔にかんしては、ただの便利アイテムに属するため、初登場以来、季節ごとに新デザインのものが販売されていた。また、イベントの報酬としても頻繁に登場していたので、同じデザインの色違いなども含めると、すでに30種類以上の使い魔が登場している。

 そのため、チップ達もふくろうの使い魔が、超が3つも4つも付くレア物であると気づいていなかったのだ。

「普通の使い魔って、戦闘中は消えるだろ? でも、こいつは残って、俺の属性耐性を上げてくれるんだよ」

「へえー。そんなスキルの発動条件もあるんだな」

 ちなみに、チップにも全ての属性耐性が80%あることは話していない。隠している、というわけでもないのだが、何となく言いそびれているのだ。そのため、オリーブの効果に対しても、ちょっと便利、くらいな反応に留まっている。

「俺のことは、これくらいにして、本題に入りません?」

 みんなの意識がオリーブに集まっていたが、本当の価値を知るはずもないため、物珍し気に眺めるだけだった。ハルマも、アクアとゼレアムも含め、詳しい説明は別の機会で良かろうと判断したこともあり、新戦力の紹介は打ち止めにして、今回集まった本来の目的へと話を変えることにした。

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