Ver.7.0/第10話
3日後。魔界でのパーティリーダー、設定によって城主に指名されたプレイヤーの滞在時間が12時間を経過した。魔界での活動時間はフィールドでの数時間以外、これといってやることがないため、通常サーバーに戻ることも多かったため、意外に時間がかかってしまった。
自陣が正式に認められた証として、フラッグが配布され、これによってサーバー内の勢力図を知ることが可能になった。
早速周辺の情勢を確認するためにメニューを開くと、隣でフィクサが先に声を上げた。
「マジかよ! ラッキーじゃねえか」
「どうしたんだ?」
「ほら、見てみろよ。同じサーバーにヨージとチュウスケのチームがいやがる。何もしなくても、オレらの下僕ができたわ」
ヨージとチュウスケは、頻繁にフィクサの配信に顔を出すプレイヤーである。PVPエリアで他のプレイヤーを嬲っていた時にも、嬉々としてフィクサに協力しており、かなりの信者と言える。
下僕という表現には、内心不快感を覚えたが、ラッキーという部分には共感できた。単純に、味方が多ければ多いほど有利になるのが、魔界というコンテンツだからだ。
「お!? あっちも気づいたな。早速連絡寄こしてきたわ」
ヨージとチュウスケは、ともにフィクサの誘いに乗り、配下に加わることを確約してきた。
これで、スタートダッシュで躓くことはなくなるだろう。しかも、陣営もさほど離れていないので、連携すれば早い段階で一大勢力に拡大できそうだ。
基本的に、序盤は互いにけん制し合うはずなので、エリアを広げるプレイヤーは少ないはずだ。上手くすれば、グズグズしているプレイヤーを片っ端から攻め落とせる可能性すら見えてきた。
「チッ……。何だよ。オメーら、全然強化できてねーじゃねーか。オレ様が金出してやるから、攻防戦始まるまでにオレ様達と同ランクにまで上げておくんだぞ」
フィクサは自分で稼いだわけでもないゴールドをわずかばかり支給し、偉そうに告げている。
そもそも、自分達の拠点もまだ最上位ランクにまでできていないので、ゴールドは不足している。ただ、ヨージとチュウスケが同じサーバーであることを配信で報告すれば、口先だけと思われている〈魔界の覇者〉という目標が、瞬く間に現実味を帯びてくる。
そうなると、寄付金も一気に増えるかもしれない。
おそらくフィクサも、そんな皮算用を思い描いているのだろう、表情はここ最近では一番明るいものとなっている。
「おっしゃ。それじゃ、オレ達の勝利を盤石にするために、レアモンスター探しに行くとするか」
機嫌が良くなった勢いのまま、フィクサは声を上げた。
元々、この日集まったのは、これが目的だ。
前日までに飽きるほどゴブリンを捕獲し続けた結果、兵士の数は15000を超えていた。当然、ゴブリンだけで軍を編成したところで、結果は見えている。数は正義とは言っても、最弱モンスターの寄せ集めでは、僅差の勝負になった時に押し切られてしまうだろう。
もちろん、ゴブリン以外にも、同じ平原エリアで見かけたオークとオーガも捕まえているが、オークはアンコモンで、オーガはレア扱いであったため、ゴブリンの半分にも満たない数だ。
大まかに、ゴブリン10000、オーク4000、オーガ200といったところだ。平原の手前に森林エリアもある関係で、虫系モンスターもいくらか捕まえたが、妨害系に強みのあるモンスターが配置されており、ソロで戦うのは危険であったため、捕獲数は極めて少ない。
ゴブリン、オーク、オーガの亜人系の強みは集団戦と道具を使える点にある。ただ、それは個体の強さは低いことを意味する上に、まともな道具を自分達で用意できない現状、あまり意味をなさない。
生産職の分野を伸ばせばいけるようなのだが、情報が錯綜している段階のため、鵜呑みにするわけにもいかず、保留しているところだ。
しかし、黙って情報が出そろうのを待ってばかりもいられない。
不確かな情報を当てにするよりも、拠点から足を延ばして平原エリアを抜け、草原エリア、荒野エリアで戦力を補充することにしていた。
ともに、コモンのモンスターが豊富なエリアではあるが、オークとオーガの出現割合から判断するに、それなりの成果は期待できた。
何より、道中で廃城なり洞くつなりが見つかれば、ドラゴン系や悪魔系の強力なモンスターが見つかるかもしれない。
そうして他人のちからを使いながら、順調に準備を進めていたのだが、翌日、勢力図に新たに登場したプレイヤーの名前を目にし、3人は興奮を隠さなかった。
「やっはっはぁ! ここでなら、理不尽な戦闘力に圧倒される心配はねえ! リベンジするぞ!」
フィクサの宣言に、サラシだけでなく、セゲツも力強く頷いた。
粗方の勢力が出そろった最後の最後で登場したのは、誰あろうハルマであったからである。
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