Ver.6/第39話

「クラーケンに勝つなんて、すごいですう!」

 自分以外は満身創痍な仲間達に囲まれ、アクアに褒め称えられる。

 ただ、ハルマ自身、どうして勝てたんだろう? という気持ちの方が強かった。

「ま、何はともあれ。勝てたことに変わりはないか」

 勝利に歓喜するというよりも、安堵する。

 と……。


【称号〈海の守護者〉を獲得しました】


『水中に限り各種ステータスが20%上がる』

『常時水属性耐性が20%上がる』

『スキル〈スイロウ〉を取得しました』

【取得条件/単独で、かつ、同格以上のクラーケンを撃破】


「ほえー。水属性の耐性が、トータル90%になった」

 水中での各種ステータス20%上昇も破格の性能なのだが、20%上がったところでDEX以外は人並み以下のままなので、ハルマとしてはふーんという程度だった。しかし、水属性にかんしては興奮を抑えられなかった。

 属性耐性90%にもなると、ちょっとした装備を準備するだけで、簡単に100%に届くようになる。100%とはつまり、水属性の攻撃を受けても、ダメージを負わないということだ。しかも、ガード率100%を維持したまま。

 相手によっては、今回のクラーケン以上に、完封できてしまう。

「ま、水属性特化の相手なんて、そうそういないけどな」

 先ほどのクラーケンでさえ、水属性の攻撃は荒波くらいのものだったはずだ。

 PVPであっても、水属性の魔法に特化したプレイヤーは聞いたことがない。ネマキは火属性魔法の特化プレイヤーだったが、それは、火属性の魔法がもっとも火力を出せるからなのだ。

 そういう意味では、未だ火属性の耐性が30%なので、全く油断できない。


「新スキルの使い勝手も試してみたいけど、今日は色々ありすぎて、だいぶ疲れたな。ここで落ちたいところだけど、マーメイドの集落までは行くか? さすがに、これ以上のイベントはないだろ。……ないよな?」

 自分でつぶやきながら、死亡フラグっぽいなと自虐する。

 それでも、本来の目的であったアクアの暮らすマーメイドの集落には、今日のうちに行っておきたかった。そして、転移オーブに登録ができれば、安心してログアウトできる。

「行くかあ」

 クラーケンに邪魔をされ、海流から外れてしまったが、アクアの話だと、すぐに戻れるようだ。


 再び海の中に潜り、アクアの先導で海流に向かう。

 すると、ほどなくして目的の海流にたどり着いた。

 今度こそ、マーメイドの集落まで一直線のはずである。

 海流に乗りながら、近くを泳ぐ魚の群れや、遠くに見える大きなクジラらしき影を眺めること数分。流れから吐き出されるように明るい場所に到着した。

「ここから上がれば、マーメイドの集落、シャーザーキですう」

 どこかの入り江らしき場所を見上げると、何やら慌ただしく動き回る影が見える。

「ここのマーメイドは、ずいぶん活発なんだな」

 基本的に、NPCは動き回らない。もしかしたら、水の中にプレイヤーが入ることはあまり想定しておらず、演出として泳がせているのだろうかと思案する。

 しかし、どうやら違うらしい。

「おかしいですねえ? 何をあんなに慌てているのでしょうか?」

 アクアですら疑念を感じているのだ。日常の光景ではないということだ。

「はあ……。急ぐか」

 嫌な予感しかしないが、ここで引き返すわけにもいかない。

 ハルマは、皆を引きつれ、上昇する。陽の光が徐々に強さを増していき、行き交うマーメイドの姿もはっきりと見えてきた。

 どうやら、急いで同じ場所に向かっているようだ。

「あそこは、長老の家ですねえ」

 ハルマ達が集落に到着する前には海中にいたマーメイドの姿はなくなり、小魚の群れが見えるだけになった。

 そのままアクアの案内で、集落の入口である中央の開けた場所に向かう。

「へえ……」

 水中から顔を出し、周囲を見回す。

 入り江を利用した海上都市の形式だ。家も通路も水の上に浮かんでいる。ただ、マーメイドは水中生活が基本なので、家の入口は床下で、海上に作られている通路を使うのは魚人種以外の種族のようだ。

 今も、あちこちでマーメイド以外の種族がどこかに移動している。

「皆さん、集落の奥の避難場所に逃げてるみたいですねえ。魔物の襲撃でもあったのでしょうかあ?」

 アクアは、どうにも他人事みたいな雰囲気で首を傾げている。

「おいおい。さっきクラーケンに死ぬ思いしたばかりだぞ? まだ、戦わないといけないのか?」

 ハルマはうんざりした表情を作るが、半ば諦めムードだ。それに、おそらく、このイベントを乗り越えないと、ここの転移場所に登録もできないだろう。

 とりあえず、イベントを進行させるため、マーメイドが集まっている長老の家に向かうことにした。

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