Ver.6/第36話
序盤の戦いは、クラーケンとの直接対決というよりも、クラーケンに追い立てられたタチウオモドキの群れとの戦闘がメインとなった。
海から飛んでくるタチウオモドキの特攻を、ハルマがガード率100%を活かして弾き飛ばし、砂浜に打ち上げられたところを駆逐していく。
ただ、アクアが貝のモンスターと話していた通り、太刀に見える部分は貝の殻の部分らしく、非常に硬く、攻撃がなかなか入らない。水属性のモンスターということもあり、ハルマ達に有効な攻撃手段が乏しいのも厄介だった。
ズキンがイシツブテをメインに攻め立てるが、なかなか数を減らせなかった。
「こいつら、ただのザコモンスターじゃないぞ? 下手したらミナドニークで見かけるBランクモンスターより強いんじゃないか?」
ミナドニークは、ハルマが進めているエリアの中でも、最前線のエリアである。クラスが追加され、獲得経験値の上限が解放されたことで、ようやく攻略が盛んになった場所でもあり、進めているプレイヤーは数少ない。
そんなエリアで見かける上位に位置するモンスターよりも、苦戦しているように感じられた。
「ヌソッキ近海で見かけるモンスターだと、これでも最弱クラスのはずですけどねえ。水の中なら、私ももう少しまともに戦えるのですが、近寄れそうにありませんねえ」
アクアは基本的に水属性の攻撃手段しかないため、アイスゴーレムを主体に戦っているが、太刀状の硬い殻に阻まれ、苦戦している。
「ヌソッキ近海……。はっ! そういうことか! 正規のルートで向かってないから、エリアボス倒してないんだ! ってことは、こいつ、エリアボスの代わりってことか!?」
突如クラーケンが現れた理由に思い至り、愕然となる。
ハルマの仮説が正しいならば、ミナドニークに入るために戦ったクレブオアラクネよりも、最低でも2つ先のエリアボスと同等の強さということになる。
「これは……。だいぶマズいかも……」
ハルマの表情は、一気に引き攣る。
何とかタチウオモドキの駆逐に成功したものの、クラーケンも浜に上がって攻撃を仕掛けるようになってきた。
ハルマの仮説を裏付けるように、クラーケンの猛攻は、凄まじかった。
ガード率が100%でなかったら、30秒とかからずに全滅してしまっていたことだろう。何せ、今までハルマを支えてきてくれていた仲間達ですら、霞んでしまうほど強力なのだ。
単純に、相性が悪いということもあるが、ヤタジャオースの攻撃ですら目に見えてクラーケンのHPを削り取るほどではないのである。
全員で一丸となっても、チマチマとしか減らせない。
それに対し、クラーケンからの攻撃は、一度当たっただけでも瀕死になるほどだ。
そのせいで、ニノエも攻撃ではなく回復に回さざるを得なくなり、なおさらこちらの攻撃手段は乏しくなる。
「これ。俺のドレイン次第とか、無理だろ」
クラーケンの攻撃は、複数の腕による乱打、どこから持ち出したのか大きな岩を投げつけてくる岩石落とし、この2つが主なものだ。
そのため、何とかハルマ自身が攻撃を受けることはない。
だが、そんな単純な攻撃ばかりを繰り返すはずもない。
「ぐあーっ! やっぱり、そういう攻撃してくるよなあ」
何度か物理系の攻撃を繰り返した後、うねうねと身をよじったかと思ったら、口からペッと黒い塊を吐き出した。
それは、ハルマに命中すると、粘度の高い油が飛び散るみたいに、ベチョッと周囲に拡散した。
……が。
「ん? あれっ? 何ともない?」
イカ墨であろう液体をモロにかぶったが、それだけだ。
こけおどしか? と、思ったものの、一緒にイカ墨まみれになったズキンを見てみると、そんなことはないと判明した。
「うわあああ、どうした!?」
どうしたも、こうしたも、イカ墨のせいなのは明白である。ハルマが慌てたのは、ズキンに暗闇、猛毒、スロウの状態異常が入り、猛毒の効果でゴリゴリとHPが減らされていたからである。
「あらあらまあまあ!? 私が洗い流しますう! でも、クラーケンの毒墨は、ちょっとやそっとじゃ治せませんから、逃げてください~」
「そういうことは、先に教えて!?」
どこか場違いなおっとりとした口調のアクアに、無茶を承知で頼み込む。むろん、これに対する返答はない。
「しかし、暗闇が入らなかったのはわかるとして、何で俺は無事なんだ? 耐性なくても、必ず入る類のものじゃないのか?」
基本的に、状態異常への対策はユララの〈加護の霧雨〉に頼り切りなので、付加効果のある装備はほとんど身につけていない。今回は、ハルマが前衛で盾役をやっている関係で、ユララとは離れた位置にいる。つまりは、素の耐性で、跳ね除けたと予想したわけだが、もちろん、ハルマの予想は間違っている。
スキルの効果が全てパッシブ系のため、日頃意識することがないせいで、本人ですら忘れているのだ。
暗闇無効をもたらした〈心眼〉だけでなく、スロウ無効と毒無効をもたらした〈電光石火〉と〈竜鱗〉のレアスキルを取得していることを。
ハルマはまだ知らない。
クラーケンにとって、偶然にも天敵となり得るプレイヤーが、彼であることを。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます