Ver.6/第30話
アクアから渡された太鼓が、ドラムに含まれるのか不安であったが、ちゃんと演奏できるようである。
ただ、形状が輪っかに5つの太鼓が横並びに連なり、半円に配置されているため、どういう風に扱えばいいのか、悩むことになる。
ところが、インベントリからドラム用のスティックを取り出した直後、太鼓は宙に浮かび、ハルマが叩きやすい位置で静止した。ちょうど、腰の回りに並んだ格好だ。
基本的に、ドラムはリズムを刻む楽器である。そのため、ドラム単体で演奏することは前提にされていない。ただ、ハルマほどのDEXになると、ドラム単体でも聞き応えのある演奏ができるらしく、曲も豊富に用意されていた。
その中から、演奏できる曲を選び、スキルに合わせて身を任せることにした。
最初に、小刻みに振るわれたスティックによって、トコトコトコとリズムが生まれ、徐々にダイナミックな動きへと移っていく。
「え……えええ」
ハルマのDEXによって完璧に刻まれる太鼓のリズムがゴロゴロと熱を帯びていくにしたがって、周囲に電気のようなバチバチとしたエネルギーが生じ始めた。
何か良くないことが起こりそうな雰囲気なのだが、どういうわけか、スキルを途中で止めることができないのだ。
「ちょっ!」
放電は更に大きくなり、ハルマの体から周囲に飛び散り始める。バチバチバチッと火花を上げながら、放電はどんどん膨らんでいく。
それは、曲のクライマックスに向けて膨張を続け、ラストの瞬間、ドカンと爆発したみたいに天に昇って行った。
「うひゃあああ」
アクアも、あまりの出来事に、あんぐり口を開けて天を見上げるばかりだ。
そうかと思ったら、今度は天から地上へドンッと閃光が舞い降りた。
いや。落下したといった方が適切だろうか。
「ぎぃやぁああああ!!」
昇った電流が、地上に戻ってくるとは露ほどにも思っていなかったのだろう。アクアだけでなく、マリーやエルシアも絶叫してしまう。
これには、ハルマも含まれる。
予想だにしなかった展開に、ドキドキしながら雷が落ちた場所に目を向けると、プスプスと煙が上がる中、ひとつの影が浮かび上がった。
「やっと見つけたあああああ!!」
現れたのは、虎柄の袈裟を着崩して身につけた、僧侶のような恰好をした金髪のオーガであった。
「どちら様、でしょうか?」
天から降ってきたであろう人物に、おそるおそる声をかける。見たところ、オーガであるが、モンスターではなさそうだ。
「ん? 僕かい? 僕はナルカミ。雷神だよ。いやー、助かったよ。うっかり大事な神器を落としちゃって、探してたんだ。まさか、地上にまで落ちてるとは思わなかったよ」
「え!? これ、神器だったの!? ご、ごめんなさい。勝手に使って」
先ほどまで叩いていた太鼓が、神聖なものだと知り、青ざめる想いだ。
「あー、いやいや。こちらとしても、助かったから、問題ないよ。それに、普通は使いこなせないはずなんだけど、スゴイね君。僕よりファンキーな音色を響かせるなんて、びっくりだよ!」
「ふふふ、何しろ、この御仁は、我々を従えるほどの御方ですからね」
ナルカミがハルマの技量に驚いていると、ピインがぴょこんと割り込んできた。
「おや。ピインじゃないか。それに、よく見たら、姿は変われど懐かしい顔ぶれだ。そうか。今は、この子と一緒にいるのか。ふむふむ。それほどの人物なのか」
何やら感慨深げに頷くナルカミだったが、更に声をかける者がいた。
「そうですぞ。この御仁。ジェイ殿のスランプを治しただけでなく、コンバス殿にも演奏の腕前を認められたほどじゃ」
バボンがペンギンの姿でかわいく頷いて見せる。
「いや。それ、今、関係ないでしょ」
思わずバボンにツッコミを入れるが、こちらの方がナルカミには驚異なことであったらしい。
「えっ!? それ、本当!?」
「本当じゃ。ほれ、ハルマ殿。秘伝の〈ロックギター〉を演奏してあげてくれんか」
バボンに促されただけでなく、ナルカミも期待に満ちた目を向けてきてしまったので、仕方なくロックギターを取り出し演奏を始める。
「うわーっ! スッゲー! 本当だ。ってことは、バンド再始動できるってこと!?」
演奏が終わると、ナルカミはキラキラした目でバボンに問いかける。
「うむ。コンバス殿は、ジェイ殿の所に向かうと話しとったから、今頃合流しとるじゃろう」
「えー! マジで!? じゃあ、僕も行かなきゃ!」
ひとりテンションの上がっているナルカミを眺め、こそっとバボンに問いかける。
「この人、もしかして、ノイジィファクトリーのメンバー?」
「ん? ああ、そうじゃ。ナルカミ様こそ、伝説のロックバンド、ノイジィファクトリーのドラマーじゃ」
「ハハハ……。そういう感じかあ……」
思わぬ人物の登場に、この後の展開は予想もつかない。これがクエストなのかどうかも、定かではない。
ハルマも、成り行きに任せるしかないと思っていたが、事態はあっさりと進行した。
「じゃ、僕、行くね! 色々ありがとー」
なんと、何も起こらぬまま、立ち去ってしまったではないか。
「え? えええ?」
さすがのハルマも、これには驚きを隠せなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます