Ver.6/第19話

「ここか……。土の大陸にも、砂浜あったんだな」

 土の大陸の初期エリアの隣、ラスピシュラムの海辺がクエストの受注場所となっていた。クエスト発注書による案内がなければ、見つけることすら難儀したであろう場所に、小さな砂浜があったのだ。

 砂浜と言えば水の大陸というイメージがあったのも大きいが、元々、土の大陸は散策時間が短かったこともあり、噂にも聞いたことがない場所である。今となっては、もっとも解放が進んでいる大陸であるが、基本的に最前線のミナドニークに向かうことが多くなっている。

「で? どこでクエスト受けるんだ?」

 クエストには大きく3パターンある。

 クエスト発注者がいて、直接依頼されるパターン。クエスト発注者がいるわけではないが、アナウンスにてクエスト発生が知らされるパターン。クリアした時にクエストだったことが後からわかるパターン。

 後者になるほど、クエスト発見は難しくなる傾向にある。

 つまりは、クエスト発注書の仕様上、前もって受注できないパターンになる可能性も低くない。実は、これも不評の一因となっているのだ。

 ハルマも、そのことを思い出し、やっちまったか? と、微妙な表情になってしまった。

 何しろ、指定された場所に出向いても、NPCどころか、モンスターすら見当たらないのだ。

 クエストを受けるだけ受けて、時間ができた時に挑戦しようと思っていたプランが、崩れてしまったのを悟った。

「せっかくここまで来たから、少しくらいは探してみるか? もしかしたら、水中に行かないと受けられないかもしれないしな」

 クエスト発注書の唯一といっても良い利点は、受けられないクエストは紹介されないことにある。しかも、通常はノーヒントで探さなければならないところ、クエスト発注書に地図と一緒に手がかりが記されているのだ。

 とはいえ、時間帯が限られている場合もあれば、ハンゾウとエルシアがいた館のクエストのように、特殊な外的条件を満たさなければならない場合もある。他にも、レイドクエストのようにパーティ人数が決められている場合や、運任せの場合もあるだろう。

 ハルマも、改めてクエスト発注書を取り出し、確認する。

「〈救え、スランプ〉浜辺でスランプに悩んでいる者がいるので、手助けしてあげよう、か。浜辺ってことは、海に入るわけじゃなさそうだな。でも、NPCは見当たらないんだよなあ……。あん?」

 小さな砂浜の物陰に誰か隠れているのかと、一通り見て回ろうと移動していたのだが、とある地点で〈発見〉のスキルに反応が出たのである。どうやら、気づかなかっただけで、NPCがいたらしい。

「何だ。ちゃんと発注者がいるタイプだった……の、あれえ?」

 スキルの反応があった岩陰に向かうも、誰もいない。

 しかし、反応は変わらず示されている。

「え? 何? 反対側に回り込まれた?」

 自分とあまり変わらない高さの小さな岩山は砂浜に埋まり、回りにサッカーボールほどの大きさの岩がゴロゴロと転がっている。とはいえ、自分の部屋に置いてあるベッドを1周するのと大差ない範囲なので、追いかければ見つけることができるはずだと動き出す。

 だが、そこはDEX極振りのステータス。

 全力で走ったところで大したスピードは出ず、影も形も捉えることができない。

「くそう。こんなところで〈覆面〉使うとは……」

 兎の覆面を取り出し、一気に速度を上昇させる。


 しかし。


「え? これでも追いつけないのか!?」

 同じ場所をぐるぐる回るも、〈発見〉のスキルに示されるNPCに出会えない。追いつけないのなら、岩山に登って見下ろしてみるかと、〈クライミング〉の準備を始めると、同行しているニノエが声をかけてきた。

「ハルマ様。さっきから何してるんすか? マネすればイイっすか?」

 ハルマの行動は、NPCのAIでは理解不能だったらしい。こういう反応を見せるのは非常に珍しいので、ハルマが思っている以上に意味不明な挙動であるようだ。

「え? あ、いや。この岩陰に誰かが隠れてるんだけど、全然追いつけないんだよ。そうだ。俺が追い込むから、捕まえてくれないか?」

「え? さっきから、ハルマ様が独りで同じ場所を走り回ってるだけっすよ?」

「へ?」

 ニノエの言葉に、しばし言葉を失う。なるほど、それならば、ニノエ達が怪訝な表情を作って、どうすればいいのか反応に困るわけだ。

 しかし、それならば、この〈発見〉のスキルに反応しているNPCはどこにいるというのか? もしかしてバグか? と、眉間にしわを寄せて考え込んでしまう。

「もしかして、旦那様が探しておられるのは、こちらの方ではありませんか?」

 混乱していると、ズキンが助け舟を出してくれた。

「こちら?」

 ズキンの指し示す先に目を向けるも、あるのはヤタジャオースと同じくらいの大きさの岩だけである。

 ……と。

「変わった形の岩だな。ってか、ホントだ。反応してるの、この岩じゃん」

 よくよく観察してみると、小さな岩山の回りに転がる岩に紛れ、確かにNPCがいた。ただ、ハルマが気づかなかったのも無理はない。

 NPCではあるものの、その姿は星の形をした岩にしか見えないのだ。

「なんじゃ。ロックスターにお目にかかれるとは、幸運じゃのお」

「バボン、知ってるのか?」

 ロックスターとは、また安直な、と思いながら尋ねる。

「あっしも管轄外なので詳しくは知らんのじゃが、この砂浜は、星の砂が採れる場所でな。幸運のお守りとして持ち帰る人族もいるほどじゃが、時折、星の岩と呼ばれる変異種が生まれるんじゃ」

「あー。星の砂って、確か、何かの虫の殻なんだっけ。それの変異種で星の岩、ロックスターってことね」

「いや。その御仁は、伝説のロックバンド、ノイジィファクトリーのギタリストをしているジェイ殿じゃの。あっしも、数は少ないが、何度かライブに足を運んだことがあるほどじゃ。そういえば、最近、とんと噂を聞かんかったのお」

「はい?」

 バボンの思わぬ情報に、ポカンと間の抜けた顔になってしまった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る