Ver.6/第17話
「良かった。この辺のモンスターも、ちゃんと上限解放の恩恵あるな」
PVPエリアは、もともとリスクを伴うこともあり、出現するモンスターの経験値は多めに設定されていた。そのため、ハルマがここに通うようになる以前から、クラス追加に合わせてレベルを40まで上げようと、同じようなことを考えているプレイヤーが、混雑するほどではないが数多く押しかけていた。
PVPのリスクもあるにはあるが、この時期にやって来ているのはレベル上げが目的のプレイヤーばかりであった。加えて、〈ドアーズ〉開催中は、PVPでツクモ紙を狙うよりも、イベントクリアによって得られるレア装備を狙う方が期待値は高かったこともある。
顔馴染みになった者に遭遇するかと思っていたが、どうやらここでレベル上げをしていた者は、ハルマと違い、すでにレベル40を超えたらしく、他所へと移っていったか、追加されたクラスの使い心地を確かめているようで、かなり閑散とした雰囲気になっていた。
おかげで、ハルマも手当たり次第にモンスターを狩ることができていた。
「さくさく経験値溜まるけど、上がったばかりだから、次まではちょっと遠いな」
アプデ直後ということもあり、クラスにかんする情報を少し仕入れてから現場に駆け付けたこともあり、使える時間は多くなかった。
加えて、採取も適宜行っていたため、これの統計を取るのにも些か時間を使ってしまっていた。
「採取の方は、まだ〈レア運上昇〉の効果があるのかどうか、ハッキリしないな、やっぱり。今までの採取も、別に記録しているわけじゃないから、装備を切り替えながら検証しなきゃだし……。しかも、感覚的な違いだけなら、あんまりなさそうなんだよなあ。これの検証に時間使うの、もったいないか?」
そもそもが謎の効果である。
実感できるほどの違いが生じるのかも判然としない。とはいえ、無意味な効果であるはずもない。
「とりあえず、今日のレベル上げはこのくらいにして、街に戻って〈レア運上昇〉の効果が何かあるか、試してみるか?」
今のところ、〈レア運上昇〉で効果があると噂されているのは、採取で見つかる素材、ポップする宝箱から取れるアイテム、スキルの効果がランダムのもの、街で引ける福引き、見つかるクエスト、聖獣の卵が孵った時に出現するテイムモンスターの種類、などがある。
どれも眉唾物の噂であるが、完全否定できる材料もない。
スキルの効果に関しては、マークが使う〈パラパラ〉がランダム効果であるが、今までとの違いは実感できなかった。ただ、これにかんしては、ハルマ自身が使うスキルではないため、対象外の可能性もあるので、何ともいえない部分である。
街に戻り、手っ取り早く検証できる作業から始める。
向かうのは、商店街である。
「確か、この辺だったはずだけどな」
狙うは、福引きだ。
1周年記念に追加されたコンテンツのひとつで、様々なところで福引券をゲットできるようになっていた。消費アイテムや素材を購入した時、クエストのクリア報酬、ポップする宝箱、などなど。
ハルマも、職人作業するために、素材を購入する機会が多いため、けっこうな数の福引券が溜まっていた。
ただ、〈ドアーズ〉やレベル上げに忙しかったこともあり、最初に数回チャレンジしただけで、放置してしまっていた。
福引きで当たるアイテムの1等が〈拠点エリア権利証〉だったというのも、あまりムキにならなかった理由だ。何しろ、すでに拠点エリアは所有している上に、だいぶ発展もさせている。しかも、この権利証で交換できるのは、街中で購入可能な物件に限られるため、ハルマにとってはグレードダウンでしかない。
とはいえ、一般的なプレイヤーからしたら、最低でも200万ゴールド、最高値の物件だと2500万ゴールドの価値があるため、垂涎の的となっている。
「1等はまず無理としても、2等か3等くらいが当たると、〈レア運上昇〉の効果があったと思っても良さそうだけど……。さすがに、ないか?」
2等の景品は、過去のイベントで報酬アイテムとして登場している装飾品類の交換券である。今もマリーが愛用している羽など、現在は入手困難なアイテムが並んでいる。
3等は、〈聖獣の門のカギ〉もしくは〈天啓の筆〉だ。聖獣の門への挑戦権を増やせるか、白紙のカードを好きな大アルカナのタロットカードに変えることができるかを選べる。どちらも、テイムモンスターを増やすために欲しいアイテムだ。
が、これもハルマにとっては、嬉しいアイテムではない。
今も、聖獣の門には上限一杯まで毎週通っているが、惰性で続けているだけで、無理に増やすつもりはない。というよりも、勝手に増え続けているので、テイムモンスターの2体目が増えたところで、今さらどう、ということもない。
それでも、3等以上はなかなか当たらないと聞いているので、いざ福引き機を前にすると、わくわくとした緊張感があった。
「さて、何が出るかな?」
ハンドルを握り、小さなボールが無数に入れられた福引き機をガラガラガラと回した。
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