第2章 通常運転
Ver.6/第16話
「くそぅ……。みんな、楽しそうだなあ」
長かった〈ドアーズ〉も終わり、Greenhorn-onlineとしては大型のアップデートが行われた。とはいえ、比較的こまめにアプデは実施されていることもあり、ハルマ達が就寝した直後くらいに始まった作業も、学校から帰る前には終わっていた。
そのため、帰ってからログインしてみると、今まで見たこともない数のプレイヤーで溢れている。
当然、その多くが、新たに追加されたクラスを吟味するため、初期エリアの街に存在する冒険者ギルドや商業ギルドに詰めかけている。
ハルマも、まだクラスを追加できるレベルに達していないにもかかわらず、気になって様子を見に来たわけだが、興奮している他のプレイヤーを眺めるだけで、置いてけぼりを食らった気分になっただけであった。
「早く、レベル上げよう」
冒険者ギルドと商業ギルドをどちらとも覗いた後、すぐにフィールドに向かうことにした。
自己強化にかんしては、正直、それほど興味はない。
戦闘スタイルが、仲間NPC任せであるというのも大きいが、やはり、自分は生産職だという自負が強い。
だが、クラスには戦闘職以外にも様々な種類があることが、わずか数時間で判明していた。
戦闘職のクラスとして追加されているのは、剣士、ファイター、バーバリアンなど、取得しているスキルによる分類から選択できるものや、プリーストやウィザードといった魔法の嗜好による分類によって選択できるものがあるらしい。現在までに取得したスキルの種類や、戦闘回数などの称号で多少の変化はあるようだが、ぎりぎりレベル40で滑り込んだ者でも、おおむね2つか3つの初歩的な戦闘職が最初から選択できるようである。
そこにきて商業ギルドである。ここで、どんな戦闘職のクラスが追加できるのか気にはなっていたのだが、答えは簡単であった。
商業ギルドで追加できるクラスは、戦闘職ではなく、行商人であるとか、目利きであるとか、そういうものだったのである。
こういったクラスを追加しても、ステータスに変化は起こらず、初期に取得できるスキルもない。ただ、NPCから購入できるアイテムを安くしてもらえたり、通常よりも高値でアイテム等を売ることが可能になるといった恩恵があるようだ。
おそらく、こういった些細な変化をもたらすクラスが、他にも無数に存在するのだろうことは、容易に想像できる。
ただ、例によって、どういう条件で追加できるクラスが解放されるのかは謎であり、同じようなステータス、プレースタイルの者でも、一方には見慣れぬクラスが追加され、一方にはそれがないということも多いようである。
そのため、ハルマもクラス追加に益々意欲が湧いているのだ。多少なりとも、自分が妙なプレースタイルであることは自覚している。レアなクラスが追加されるかもしれないという期待感があったのだ。
しかし、ここでひとつのジレンマが存在した。
レベルを上げてクラスを追加したい。これは、優先課題だ。
そこは変わらない……のだが、レベルが36に上がったばかりというタイミングが悪かった。
ついに、〈ドアーズ〉で手に入れた〈レア運上昇〉埋め尽くしのフェンサーヘルムを装備できるようになってしまったのだ。幸い、頭装備は精神系の状態異常の耐性であるとか、HPやMPを上乗せさせるとかの付加効果が基本であるため、重要視していない部位である。つまりは、すぐにでも装備を変更しても、何の問題もない。
気持ち的には、レベルを上げたい。しかし、〈レア運上昇〉の効果も検証したい。ジレンマである。
これに更なる追い打ちをかけている要因もあった。
後2週間もすれば始まる、〈魔界〉での戦いだ。これが始まるまでに、クラスをひとつくらいは追加したいと思っているのだが、さすがに間に合わなさそうである。
ただ、ひとつだけ気が楽になったこともある。
魔界での戦いは、全プレイヤーでの協力が前提ではない点だ。
チップ達と違って、〈魔王イベント〉参加への追加ルートとしての意味合いも特にない。無理に勝ち残って〈魔界の覇者〉を目指す理由もないので、気軽に参加できる。そもそも、戦国シミュレーションゲームは不得意なジャンルであるので、早い内に対戦サーバーから抜けて、のんきにソロプレーをしようと思っているほどだ。
対戦系コンテンツに属するとはいえ、公開イベントでもないので、敗戦を記録される心配がないところも気が抜けるポイントだ。
「チップの話だと、上限解放されたといっても、俺くらいのレベルだったら、ランクが上のモンスターに時間使うより、サクサク倒せるモンスターを多く捌いた方が効率良いって言ってたから、今まで通りフラムフエゴのPVPエリアで良いかな? 合間に採取やって〈レア運上昇〉の効果を検証してみよう」
いつもは採取メインで行動するところを、戦闘メインに切り替えて、レベル40を目指すことを当面の目標にするのだった。
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