Ver.6/第15話

『新コンテンツ〈魔界〉解放!』


 テロップが表示され、数瞬の間が生じたかと思ったら、MCのクラッチが我に返ったみたいに口を開いた。

「ええー! このタイミングで発表するというこは、もう間近ということですよね? 確かに、秋頃とは聞いていましたが……」

 クラッチが予想外だと口にするのは理由がある。

「おっしゃる通り、こちらは10月に入ってすぐ解放する予定です」

「え!? 本当に、もうすぐじゃないですか。クラスシステムに慣れる暇もありませんよ? ゲームの開発者が言う秋って、だいたい11月の中旬以降で、もう冬ですけど? って時期なのに、どうしたんですか?」

 現在、9月上旬。

 1周年記念イベントの〈ドアーズ〉も、期間はわずかだが、まだ残っている。

 経験値の上限解放と同じタイミングでクラスシステムが追加されるということは、アップデートから魔界の解放まで2週間ちょっとしか時間がない。

 クラッチだけでなく、視聴者からも予想外だと驚きの声が溢れるのも仕方のないことだ。

「いや。11月は、秋……ですよ? うん。とはいえ、皆さんの予想よりも早い上に、タイミングが悪いというのは、こちらも重々承知しているんです?」

「それでも、このタイミングにする理由がある、ということですね?」

「そうなんです……が、まずは〈魔界〉について、どんなコンテンツなのかを、簡単にではありますが、紹介させてください」

「そうですね。そっちの方が気になりますものね。お願いします」


 吉多による〈魔界〉の説明が始まった。

 魔界は、期間限定コンテンツで、年に2回解放される予定だということが最初に紹介される。

 では、〈魔界〉で何をするのか?

「多くのプレイヤーさんに〈魔王イベント〉で魔王を目指してもらっていますが、魔界では、全てのプレイヤーさんに魔王になっていただけます」

「ん? PVPが主体のコンテンツなんですか?」

「あー、いやいや。プレイヤーさん同士が競い合うコンテンツではありますが、直接戦って勝敗を決めるというわけではないです」

 すでに、〈大魔王決定戦〉の出場者にプレオープンと称して体験させているエリアである。これにはナイショ、ニコランダ、チョコットといった動画配信者も参加していたため、多くの情報が拡散されている。ただ、〈魔界〉内部の映像は持ち出せていなかったため、憶測と実体験による口頭での情報がメインである。

 これによって導き出された予想は、プレイヤー同士が協力し、モンスターから国土を取り戻し、魔界全土を平定することを目的にするシミュレーション的なコンテンツだった。

「現在の〈魔界〉は、乱立する魔王の対立によって、分断された世界です。そこには魔王を目指す魔物が統治する勢力と、魔界を魔物から取り戻そうとする一族による勢力、そして、新たに魔王として召喚されることになるプレイヤーの皆さんという勢力図になっています」

 プレイヤーは、複数あるサーバーにわかれ、ひとりの魔王として、〈魔界〉の統一を目指すことになる。

 最初に振り分けられるのは、小さなエリアと、自分専用の拠点のみ。ただし、パーティを予め組むことも可能で、その場合は、ソロプレイヤーと同じエリアをひとつと、パーティ人数分小さくなった拠点が与えられる。拠点の大きさは、耐久度に直結する。

 プレイヤーは、拠点を強化しつつ、エリアの拡大を目指すことになる。

「エリアの拡大ということは、他の魔王、つまりは、他のプレイヤーさんのエリアを奪い取る、ということですか?」

「そうですね。他の魔王のエリアでもいいですし、魔物が占領しているエリアでもいいですし、魔界で暮らしている一族のエリアでも構いません。とにかく、期間内に最もエリアを大きくできた魔王が、覇者として生き残ることになります。これを、短期間に3回繰り返し、最後まで覇者として勝ち残ったプレイヤーさんが〈魔界の覇者〉となり、最終的な勝者となります。ただ、参加人数によるので、魔界の覇者として何名の方が残るかはやってみないとわからない部分もありますね」

「でも、直接のPVPはないんですよね?」

「はい。PVPでエリア争奪戦となりますと、ログイン時間が重なったタイミングでしか行えないので、それは、ちょっと、となりまして。エリア争奪戦、防衛戦にかんしては、〈魔界〉で集めた兵士によるAI戦で行います。なので、魔界にずっといないといけないということもありませんし、魔界での活動時間も制限が入りますので、あまり参加できない方でも、じゅうぶんにお楽しみいただけると思っています」

「完全にオートバトルということですか?」

「ログイン中に攻め入られても、手出しも口出しもできません。なので、事前に拠点の強化と兵士や指揮官の設定をしっかりしておいてください。また、攻め入るタイミングは、事前設定と、直接指示の2パターン設けていますので、ご活用ください。それと、玉座にプレイヤーがいる場合は、拠点の防衛力が上がる仕様になっていて、ログアウト中もアバターを玉座に待機させておくことができるようになっています。なので、ログアウト中の方が攻め落とされる可能性は低くできます」

「イメージ的には、戦国シミュレーションゲームに近いですかね?」

「そうですね。一番近いのが、それだと思います。ただ、兵士や指揮官はプレイヤーさんが自分で見つけないといけませんし、拠点や兵士の強化といったものもプレイヤーさん自身で行っていかないといけません。ある程度勝手に増加や強化されていきますが、プレイヤーさんの手腕で、大きく戦力は変わっていくはずです。あと、一番の違いが、自分のエリアがなくなっても、終わりではない点です」

「え? 残るんですか?」

「奪われた魔王の配下として、プレーは続けられます。そして、2ラウンド目以降も配下として残ることも可能で、仕えている魔王が覇者となった場合、報酬もあります。なので、報酬目当てで、有力な魔王の配下に鞍替えすることもできますし、最初から自分を売り込んで有利な条件で報酬を狙うということも可能です」

「おっと、急に生々しい話になりましたね。でも、無理して勝ち残るだけが、生き残る道ではない、ということですね?」

「そういうことです。あと、〈大魔王決定戦〉後の情報で、魔界では大量のモンスターと戦えるというものがあったと思いますが、それは、残っています。多少の調整は入りますが、経験値の上限が解放された後のレベル上げや、クラスの熟練度上げには、持って来いの場所だと思いますよ」

「おー。それで、このタイミングということなんですね」

「あ、いや、それもあるんですが、それとは別に、スケジュール的な都合もありまして……」

「?」

「実は、〈魔界の覇者〉として勝ち残った方の中から数名、〈魔王イベント〉の魔王としても参加していただく予定なんです」

「え!?〈魔界〉で魔王に勝ち残った方と、直接対決ですか? ん? でも、重ねてになりますけど、〈魔界〉ではPVPはないんですよね?」

「まあ、実験的な試みになるので、もしかしたら該当者なし、ということになる可能性も高いのですが……。イメージ的には第1回〈魔王イベント〉のダンジョン攻略も含めた魔王戦に近いことになると思います。もしかしたら、PVPなしの、ダンジョン攻略だけ、になるかもしれません。その辺は、魔界の覇者になられた方を見てからになりますかね。それと、この魔王枠は、通常の〈魔王イベント〉の600名の枠とは別になります」

「なるほど。もしかしたら、大魔王であるハルマさんとは一味違った猛者が出てくるかもしれない、ということですね?」

「そうですね。どんな〈魔界の覇者〉が登場するのか、楽しみにしています。後、気になっている方も多いかと思いますが、最初から他のプレイヤーのいないサーバーで、NPCだけを相手にプレーすることも可能です。もちろん、その場合は〈魔界の覇者〉になることはありませし、報酬もありませんが……。トータルで1か月近い長さの開催期間になりますので、あまり長時間参加できない方や、エリアを奪われたけど、他のプレイヤーさんの配下になって続けるのはちょっと、という方は、そちらのバージョンを楽しむことも可能です」

「おー! それは、楽しみ方が広がりますね」


「えーと? 話をまとめますと、〈ドアーズ〉が終わり次第、獲得経験値の上限解放があって、クラスも追加されて、そのすぐ後に〈魔界〉が解放されて、魔界の覇者が決まったと思ったら、〈魔王イベント〉が待っている。ということで大丈夫ですか?」

「そうですね。これから2ヶ月くらい、また忙しい日々が続きますね」

「本当ですよ。ゆっくりクラスを育てる暇もありませんよ。嬉しい悲鳴ではありますけど……」

「ここまでは、サービス開始前から描いていた展開ですので、次回の〈魔王イベント〉以降は、少し落ち着くんじゃないかな? と、思っていますが、まだまだ進行中の計画もありますので、とりあえず、新要素、新コンテンツを楽しんでいただけたらと思います」


 こうして、いつもよりも1時間以上も時間を延長して、放送は終わりへと向かうのであった。

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