Ver.6/第4話

「あたしとソラマメさんで〈錬金〉やって、〈鍛冶〉と〈裁縫〉は担当するから、ハルは〈調合〉と〈木工〉をお願いできる?〈細工〉で何かアクセも作れたら、作って欲しいけど」

 8人パーティの大所帯。それだけでも〈ドアーズ〉のイベントエリアでは珍しいというのに、テイムモンスターも多い。ハルマだけでもイタズラ天使のマリー、ケット・シーのラフ、蜘蛛のぬいぐるみのトワネ、カラス天狗のズキン、ゴーゴンくらげのユララ、アイスドラゴンのヤタジャオース、ダークエルフのニノエ、シャドースライムのシャム、アンデッド忍者のハンゾウ、ホーリースピリットのエルシア、うさぎのピイン、魔導書マーク、イワタベペンギンのバボンの13体。

 これに、チップのテイムモンスターであるリザードマンのルヴァン。

 シュンのテイムモンスターであるサンドマンのサラサ。

 アヤネのテイムモンスターである水龍ミズチのカルム。

 モカのテイムモンスターである火竜ティラノビーストのコナまで連れている。

 数だけなら、ミドルレイドに匹敵する戦力を1パーティでそろえているわけだ。マカリナとラキア、ソラマメも当然テイムモンスターを所有しているのだが、ただでさえ過剰戦力だからと連れてきていない。

「いやー。生産職が3人もいると、楽だねえ」

 ハルマ、マカリナ、ソラマメと、それぞれ作業を始めたのを眺め、モカはニッシッシといつもの笑みを浮かべる。

 素材の採取は、8人総出で行っているため、かなりの数を確保できていた。

 しかも、今回はテイムモンスターに2つまでは装備品を持込ませることができたため、戦闘も最初からあまり苦労せずに済んでいる。

 第1エリアの森の中、開けた場所を見つけ、即席の生産拠点を拵えると、テキパキと作業は進んでいった。

「それじゃあ、ハル君たちが装備品とか作ってくれてる間に、わたしは食糧確保しておくね」

「あたしも手伝うよ」

 ルールの緩和によって、イベント開始後に取得したスキルも使用可能になったことで、一気に〈料理〉スキルの使い手が増えた。アヤネとラキアも、背に腹は代えられないと、新規に取得した口である。

 ハルマが真っ先に作ったテントを中央に、それぞれが役割を果たしている様は、通りすがりのプレイヤーからすれば、奇異なものであったが、ハルマとモカを知る者は多く、無言のままスクショを撮るだけで立ち去っていくばかりだ。


「第2エリアは、どっちのルートにする?」

 生産職の3人のおかげで、装備品は充実した。もちろん、拾える素材のレアリティが低いため、それなりのものしか作れないが、今回はソラマメが職人設備を持込んでくれたおかげで、装備品を2つ持込めている。これもあり、ハルマもガード率特化の片手剣で身を守ることができている。

 第2エリアは、山と山間の平原エリアからなる。所々森も点在するが、そこには高ランクモンスターであるエルダーハーピーが待ち構えている。

 ルートは大きく2つ。

 1つは大量のモンスターが徘徊する平原エリアを突っ切るもの。

 もう1つは、山頂の尾根ルートだ。

 ギミックさえ把握していれば、楽なのは山頂ルートの方である。〈クライミング〉をスキルも、今回のメンバーは全員取得済だ。

「噴煙は上がってないから、山頂ルートを進んでも、かなり待たされるよ。まあ、このメンバーなら、ビッグイヤーとの連戦も苦にならないだろうけど」

「正直、モカさんとハルが一緒なら、どこを通っても問題ないんじゃない?」

 チップの問いかけに、ハルマとマカリナが答えると、シュンが周囲を見渡しながら、のんびりとした口調で話に加わる。

「どうやら、ハルマ君とモカさんに気づいたみたいだよ。他の人たちも一緒に抜けたいみたいだから、まとめて面倒見てあげたら?」

「へ?」

 シュンの言葉に、ハルマだけでなく、他のメンバーも周囲に視線を向けてみる。

「ありゃ。ホントだ」

 モカも、自分達を遠巻きに観察しているいくつもの視線を見つけ、キョトンとした顔になってしまう。

「ほとんど寄生してるような俺が言うのもなんだけど、共闘してやってくれないか? 俺の知り合いも、ここを抜けるのに苦労してるやつは多いみたいだからさ」

 ソラマメは、申し訳なさそうに告げる。

「何言ってるんですか。このイベント、生産職の協力なくして、成り立たないんですから……。じゃあ、この数をまとめて案内するってなると、平原ルートしかないな」

 チップも、基本、面倒見の良いプレイヤーであるため決断は早かった。

「イッシッシィ。うちは、暴れられればどっちでも構わないよお」

 チップから同意を求める視線を向けられたモカは、気持ちの良い笑顔で答えると、身振り手振りを交え「あっち方向に行く人よっといでー! 大魔王様が連れて行ってくれるよー!」と、大きな声を上げるのだった。

 即座に、ハルマが「ちょっと!」と、驚きの声を上げたのは言うまでもない。

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