Ver.6/第5話

 結局、第2エリアの平原を、周囲に居合わせた9パーティを引き連れて突っ切ることになった。これだけの数が集まると、モカとハルマが居ようが居まいが関係ない戦力となる。

 だが、旗振り役となる者が名乗り出ないことも多いため、同じ場所に居合わせたとしても、簡単に共闘が成立するものではない。MMORPGとはいえ、人任せなプレイヤーは、けっこう多いものだ。

 何人ものプレイヤーに感謝されたが、正直、ハルマが何か特別なことをしたわけでもなかったので、居心地の悪い思いをしただけだ。

 ただ、そんな中でも、モカやチップは先頭に立って奮闘していたのは、さすがと言わざるを得ない。

 そうやって到着した第3エリア。

 ハルマは中間地点に点在するオアシスのひとつに立ち寄ると、感心した様子でその場の賑わいを眺めるのだった。

「ほえー。聞いてはいたけど、こんなことになってるんだな」

「ハルマとテゲテゲさん達がオアシスにキャラバン作って、即席の交流場所にしたのを、他のサーバーでもマネするようになったからな。たぶん、どのサーバーでも、ここまで来たら、大なり小なり生産職の人からサポート受けられるようになってるはずだぜ」

 ハルマがテゲテゲ達のために準備した建物みたいに立派なものはないが、思い思いの場所に生産職プレイヤーが生産設備を置いて、作業を行っている。

 料理のできるプレイヤー同様、職人スキルを新規に取得した者も少なくない。ただ、料理スキルと違い、職人スキルは経験がモノを言う。昨日今日始めた者では、職人レベルが足らずに満足な装備品は作れないのだ。

 そのため、職人スキルを持たない者は、イベントエリアで集めた素材を、ここに集まっている生産職プレイヤーに渡して装備品や消耗品に作り変えてもらっているわけである。

 生産職のプレイヤーとの交渉は金銭であったり、今後の取引だったり、様々だ。基本的に、ここで職人作業を続けることで職人のランクやレベルが上げられたり、新しいレシピの情報が手に入ったりとメリットも多いので、生産職プレイヤーも気軽に交渉に応じていることが多い。

「これだけ賑わってるなら、俺達が手を貸す必要もなさそうだな」

 モカも、夏休みとはいっても、高校生とは比べものにならないほど短い期間のため、可能な限り短時間でクリアを目指している。加えて、パーティ人数も多く、緩和もされているため、攻略のペースが速い。

 実際、あまりに順調すぎて、予定よりもかなり早くここまでやって来ていた。そのため、モカがビールを飲みたいと言い出したため、休憩も兼ねて、ここで少しくらいならサポートに回ってもいいと思っていたのだが、生産職の人手が足りないという雰囲気ではなかった。

「うーん。でも、アレを扱ってる人はいなさそうだよ?」

「アレ?」

 目新しいもの――主にカワイイもの――が何かないかと、ひと回りしてから戻ってきたアヤネの言葉に、首を傾げる。

「ほら。この先のピラミッドの攻略に使えるアレだよ」

「あー。〈陽炎の眼光〉のこと?」

「そう、それ」

 本来はゴースト系のモンスターを視認できるようになるアイテムだが、この先にあるピラミッド内を徘徊するイタズラ妖精という特殊なNPCを見つけるのに役に立つ。このNPCを追いかけるだけで、ピラミッド内に仕掛けられているトラップも回避できるため、大幅に難易度を下げられるのだ。

「アレの素材は、通常の方法じゃ採取できないからね。必要なら取りに行くけど、俺達は別になくても問題ないからなあ」

 今回のパーティは、ハルマだけでなく、マカリナとソラマメも〈発見〉のスキルが育っている。しかも、〈トラップ解除〉のスキルもハルマが取得しているため、回避する必要がない。

「そうなんだけど。ハル君のことだから、作り方を伝授して回るのかと思ってた」

「確かに。ハルって、面倒くさいって言うわりには、面倒見がいいものね」

「いや……。そんなことはないと思うぞ?」

 アヤネとマカリナの言葉に、苦笑いで反論する。確かに、〈ドアーズ〉では、フルレイドの人数が集まるまで時間ができたこともあり、他のプレイヤーのサポートに回ることを選んだが、基本は気楽なソロプレイヤーである。

 支援を目的に生産職の道を選択したが、それは、チップがいたからであって、見ず知らずの誰かのために苦労する気はないし、してきたつもりもなかった。

 そうこうしていると、いつの間にかモカも離席から戻って来ていたらしい。

「じゃあ、どうする? ハルちゃんがやることないなら、先に進んじゃう? さっきのエリアであんまり戦えなかったから、余裕もあるし」

 オアシスに立ち寄ったのは、ただの見学である。

 テゲテゲ達が今も続けているキャラバン活動と、どんな違いがあるのか、興味があっただけだ。

 ここで、他の生産職の助けを借りる必要もないため、留まる理由もない。モカが戻ってきたのなら、尚更だ。

「そうですねえ。第2エリアでもう少し経験値稼げるかと思ってましたけど、思わぬ大行軍になっちゃいましたからね」

「そうだな。レベル上げの足しにしたいなら、この先はあんまり向いてないから、ちゃっちゃとクリアした方がいいんじゃないか? イベント終わったら上限解放されるから、今経験値稼ぐなら、火の大陸のPVPエリア辺りがいいんじゃないか?」

「ほー。でも、PVPエリアは、あんまり気が進まないなあ」

「大丈夫だよ。火の大陸に、ガチのプレイヤーキラーはいないはずだから」

「そうなの?」

「何だ。リナも知らないのか?」

「ハルと違って、ソロだとまっとうな生産職ですもの」

「異議あり! 俺も、まっとうな生産職なんですけど?」

「いや……。お前らふたりをまっとうな生産職と認定するのは、無理がある。とはいえPVPに興味がないのは、わかったよ」

「ねえねえ。火の大陸のPVPエリアって、他と何か違うの?」

 ハルマとマカリナに加わって、モカも興味を示してきた。

「他の大陸は、エリア全体がPVPエリアなんですけど、火の大陸だけは、早い内に解放できるエリアにあるからか、エリア内の一部だけなんですよ。そのせいで、サービス開始直後には行けるエリアだったのに、しばらく気づかれなかったくらいですからね。だから、今となっては、新規プレイヤーがあちこち巡って初心者を卒業して、レベル20から25くらいになったら向かうような場所なんで、レベル40以上の古参プレイヤーは滅多に行かないんです。それに……」

「「「それに?」」」

「このゲームのことをある程度知ってれば、アンタらバケモノに勝負仕掛ける阿呆なんて、いないでしょ?」


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