Ver.6/第3話

「でも、意外でした。モカさんって、こういうイベントやクエストを、何が何でもクリアしておかないと気が済まないタイプじゃないと思ってました」

 そうでなくても、このゲームに内在するクエストを全て見つけ出しクリアすることは不可能だと思われている。

 最初の頃こそ、病的なまでに探し回っているプレイヤーもいたらしいのだが、ハルマを例にしても特殊なクエストが多すぎて、すぐに諦めていた。

「うちも、お祭りごとに参加するのは嫌いじゃないから、どれだけ迷子になっても続けてたんだけどね。ここは、ここで、面白い戦いができるし。ただ、今回は、今までと違って、クリアしたら称号もらえるらしいじゃない? スズコやネマキちゃんなんかが、先のこと考えたら、クリアしておいた方が良いって話してたから」

「俺も、その噂を聞いて、誰かに手伝ってもらおうと思ってたところだったから、ちょうど良かったよ」

 モカが言い終わると、ソラマメも話に入ってきた。

「称号……。そういえば、獲ったな」

 自分がクリアした時は、報酬のことよりも、ミッションを達成できたことそのものに安堵したため、すっかり忘れていた。

 弟のチップ同様のガチゲーマーであるスズコだけでなく、トッププレイヤーのひとりとして名高いネマキも称号の存在を気にかけているということは、重要なシステムである可能性が高い。

「ハルマ達はクリア第1号だったから、それどころじゃなかったのかもな。サエラさん達も気づいてなかったみたいだし」

 ハルマの表情を見て、チップが横から援護してくれた。

 イベントクリアによって獲得できた称号は〈第1の試練を乗り越えし者〉というものだった。ただ、以前獲得した〈ドラゴンスレイヤー〉とは異なり、これといって効果が生じるものではない。

「そういえば、俺、称号って、〈ドアーズ〉始まってから初めて獲ったんだけど、前からあったのか?」

「確かに、数は少ないけど、あるにはあったぜ? レベル40になった時とか、初期エリアを除く、新規の解放エリアが20越えた時とか……。とはいっても、この辺は誰でも獲れるやつで、珍しくもなんともないけど。ってか、ハルマ、解放エリア20越えてないのか。最速クリアしてるエリアもあるくせに、相変わらずアンバランスなヤツだな」

 チップが知っているだけでも、ハルマがエリア到達第1号の場所は2か所もある。

「俺、今行けるエリアだけでも採取満足してるから、全然広げてないんだよ。今のところ、大陸間の違いってあんまりないし……。同じレベル帯のエリアを開拓していくより、同じ大陸をどんどん進んでいった方が、採取的には良さそうなんだよな。それに、人が多い所だと、変に顔が知られてるせいで活動しにくいんだよ。しかし、そうか。レベル40で称号が獲得できてたのか……。クラスシステムが追加されるフラグっていうか、予兆みたいなもの、あるにはあったんだな」

「今になって思えば、そうだな。レベル50じゃなくて40って、微妙なタイミングだったから」

「スズコ達も、同じようなこと言ってたよ。レベル40の称号が、クラス追加に必要なトリガーだとしたら、持ってる称号によって、追加されるクラスに変化がある可能性大、って。うちは、クラスが何なのかはよくわかってないんだけど、あるに越したことはなさそうじゃない?」

「なるほど」

「まあ、確認されてる称号少なすぎるんで、あんまり、称号にこだわっても意味ないかもですけど。それよりも、オレとしては、スキルの組合せの方が可能性高いと思ってますよ」

「テスピーは、そっち派っぽいね」

「そうなんですか? 前に聞いた時は、最初は全プレイヤー共通で10種類くらい解放して、順次増やしていくんじゃないかなって話してましたけど」

 クラス追加のサプライズ発表の後、様々な考察がされている。

 ハルマも、ミッションクリアの直後、お祝いも兼ねてスタンプの村の住人が集まった時に話しを聞いていた。

「最初からクラスシステムがあったら、そういう解放方法だったかもしれないけど、このタイミングだからな。それに、安藤さん、プレイヤー間の格差は気にしない方針って、前から話してるから、全プレイヤー共通ってことはなさそうじゃないか?」

「そうそう。テスピーも、考え変わったって言ってた」

「皆、色々考えてるんですねえ」

 むろん、こうやって、新しく追加される新要素について予想する時間が、もっとも楽しい時間といえる。と、そこで別の視点が割り込んできた。

「でも、あたしもそうだけど、ハルも、まずはレベル40に上げないとでしょ? 正直、あんまり気が進まないのよねえ」

 ハルマ同様、基本的に生産職プレイヤーでありながら、トッププレイヤーとして認知されているマカリナだ。彼女もまた、特殊なスキルによって戦うため、レベルを上げることに重きを置いてこなかったプレイヤーだ。こちらは、ハルマと違い、生産職を序盤に楽しんでいたこともあり、レベルを上げ始めたのが、そもそも遅かったというのもある。

「そうなんだよなあ。しかも、〈ドアーズ〉終わってからの方が、レベル上げやすくなるだろ? あれ? そういえば、モカさんって40超えたんですか?」

「ん? うちも、まだだよ? でも、ふたりと違って、そんなに頑張らなくても間に合うんじゃない?」

 レベルだけを見たら、ハルマ34、マカリナ35、モカ39と、プレイヤー全体の平均レベルが45前後と言われる中にあって、低い部類の3人なのだが、この3人に勝てるプレイヤーはそうはいない。というか、この3人がパーティを組めば、勝てるプレイヤーは皆無になるだろう。

 そのことを知っているため、他のパーティメンバー5人からは、生ぬるい視線が向けられるのだった。

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