Ver.5/第65話

 スフィンクスの攻撃と砂漠から湧き出すモンスターを警戒しながら、何とか〈バリスタ〉本体を作り終えると、用意されていた土台の近くにいたプレイヤーが設置してくれた。

「デカいな」

 戦闘エリアの対角線に近い場所に設置されたそれを見て、素直に驚きの声を上げる。フルサイズのトワネよりも大きく見える。

「ダメ! 私ひとりじゃSTRが足らなくて使えないっぽいです!」

 設置したプレイヤーが、困ったように叫ぶ。どうやら、サイズの通り、簡単には使えないらしく、一定以上のSTRが必要なようだ。ここで、〈バリスタ〉本体を設置する方がSTRいるんじゃね? などと考えてはいけない。

「次から次に、楽しませてくれるな」

 戦況は大わらわといった風情だ。

 湧き出るモンスターを討伐し、襲い掛かってくるスフィンクスから逃げまどう。一か所に留まっている時間は短く、絶えず動き続けなければならない。

 戦闘エリアのどこにも、セーフティゾーンはないからだ。

 それは、〈バリスタ〉の射手であっても変わらない。

 巨大な弓に〈鍛冶〉で作った矢をつがえ、狙いを定めて発射させる。

 スフィンクスの動きは規則正しいため、命中率はかなり高い。そもそも、この場に集まったメンバーは、DEXが高めの者が多いため、補正もかなり高い。

 2か所目を設置するより早くに、〈バリスタ〉の効果は発揮されたほどだ。

「落ちたぞ! 今のうちに集中攻撃するぞ!」

 戦闘能力の高いパーティが、こぞって群がりダメージを与えていく。ハルマも、自身の守りは最小限にして、ズキンやヤタジャオースを攻撃に行かせる。

 ただ、このボーナスタイムは、長くは持たない。

 2分ほどでスフィンクスは起き上がり、反撃を始めた。しかし、飛び立つまでは、更に2分ほどを要した。

 撃ち落とし、起き上がるまでに、どれだけ削れるかが、勝負のようだ。理想としては、地上のモンスターを一掃したタイミングで撃ち落としたいが、その辺の息を合わせるのは、フルレイド戦では少々難しい。

 それでも、同じようなパターンのくり返しのため、だんだん慣れてくる。

 ……のだが、そこはレイドボスである。

 最後まで同じパターンが続くはずもない。

 スフィンクスのHPが半分を切った後だった。

「ん?」

 ある程度身構えていたが、変化は思ったよりも大きいものだった。

「うお! ダンジョンメイカーとビッグイヤー!」

 それまで砂漠のサソリ型モンスターばかり召喚していたのに、ここにきて違うモンスターも混ざり始めたのだ。

「ダンジョンメイカーにはダメージ入らねえ。特殊NPCのままだ!」

 砂中から飛び出したダンジョンメイカーは、ただ戦闘エリアを動き回るばかりなのだが、地形が変化していく。更に、通った後からサソリ型のモンスターも這い出てくるため、パーティが分断されたり、死角を作られたりしたところを襲われる。

 そこに上空から、ビッグイヤーが仕掛けてくるのだ。

 ダンジョンメイカーによって作られた壁に逃げ場をなくされたところに、ビッグイヤーのブレスを浴びせられると、かなりヤバイ。

 当然ながら、これにスフィンクスの攻撃もこれまで通り追加されるのだ。

「いやー! ミミズはダメえ!」

 どこからかコイモの絶叫も聞こえてくる。

 魔界で戦ったエンシェントヒュドラの時と違い、即席の判断力が求められるのだ。戦闘が苦手な者も少なくない中、誰もが自分のできることを懸命にこなしていく。他の誰も頼れないのだ。

 この場に集まったメンバーでどうにかするしかない。

 お世辞にも統制の取れた動きではないし、無駄な動きも多い。それでも、不思議なことに楽しかった。

 何の前情報もなく、何の打ち合わせもできず、その場のノリと勢い、自分の技量で戦うことが楽しかった。上手くいかないことある。上手くいった時は誇らしくなる。何気ないことを褒められる。だから、仲間を褒めたくなる。

 この場にいるのは、大魔王ハルマではなく、ただの冒険者ハルマだ。そのことが、嬉しかった。

「そうなんだよ。俺は、誰かを支えたくて生産職を選んだんだよ」


 難しい戦いであったが、基本的にイベントボスである。フルレイドとしては普通の難易度で、これ以上の変化は起こらなかった。しかも、ハルマが参加していたことで、人数的な余裕もあった。

 時間こそ、トータルで2時間ほどかかってしまったが、何とか勝利することができたのだった。

 ただ、ダンジョンメイカーとビッグイヤー、これにスフィンクスまで絡んで、全体の半分以上が一度に戦闘不能になった時には敗北を覚悟したものだ。

 この時、ハルマの蘇生薬が〈パラレルコンタクト〉によって全員に行き渡らなかったら、立て直しは絶望的であったことだろう。

 最後にユキチとサエラがスフィンクスにとどめをさすと、光となって散りながら、戦闘エリア全体が姿を変化させていった。

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