Ver.5/第66話
「勝った……?」
今まで砂漠が広がっていたエリアが光に包まれたかと思ったら、最初のコロシアムに移動していた。
舞台の中央には、今まで見たことのない豪華な宝箱が置かれている。
「勝った、みたいだね」
ログに勝利によって得られた経験値が表示されていることを確認して、ようやく実感する。勝ったのだと。
「「「面白かったねえ」」」
ニャル、チイ、コイモが互いに楽しそうに健闘を称え合っている。
「ほらほら、何が入ってるのか、確認しようよっ!」
今回は、ハルマの圧倒的な戦力でもって勝利したわけではない。この場の全員が、MVPみたいなものだ。そのため、誰に遠慮するでもなく、わらわらと宝箱に集まり出した。
……が。
いざ、宝箱の前に全員が集まると、手を出しても良いものかと、動きが止まってしまう。
お前が開けろよ。いや、お前が。そんな雰囲気だ。
そんな中、視線はハルマに集まり始めていたが、空気を読まない人物がいた。
「なんじゃ? みんな、開けんのか?」
最高齢であろうアグラが、あっさり開けてしまったのだ。
「あらあら。ごめんなさいね。年を取るとせっかちになっちゃって」
ヤチは、穏やかに笑みを浮かべるばかりだ。
しかし、ハルマは知っている。このヤチがおかしなプレイヤーであることを。
同じパーティであるため、視界の端にHPとMPが表示されるのだが、彼女だけダメージを受けた気配がなかったのである。
ハルマのように特殊な耐性を持っているのかもしれないが、今回はハルマも攻撃を全て回避することはできなかったのだ。エンチャントによってDEXが強化されたことで、辛うじてガード率が100%に届き、物理攻撃は弾けたが、範囲魔法は普通に当たってしまっていた。パッシブスキルの効果で風属性に対する耐性が70%ある上に、盗賊NPCと交換した防具の中に、たまたま風耐性20%というものがあり、これを装備していたおかげでほとんどダメージを受けずに済んだだけなのだ。
もしも、ビッグイヤーの〈ファイアーブレス〉を食らっていたら、耐えられなかったのは間違いない。
時々、ヤチの動きを見ることができたのだが、未来視のようなスキルでも持っているのではないかという回避能力の高さだった。
同じようなスタイルのユキチが、時々大ダメージを受けて前線を離脱していたことを鑑みるに、異常なことだ。
年の功で説明がつくものなのだろうか? と、ハルマですら、畏怖してしまうほどである。
「ドロップは、普通だねえ。ってか、装備品もらっても、外に持ち出せないんじゃ……ん?」
宝箱に入っていたのは、3種類の装備品だった。種類は上級に部類されるものだが、付加されているものはランダムのため、当たり外れが大きい。実は、このイベントエリアで拾える装備品に付加されるものは、本来の付加術では付けられない効果も含まれるのだ。
そのため、中には、生産職のプレイヤーでは作ることが不可能な、魔改造と呼べるレベルの性能を引き当てた者もいるようだが、ハルマはこういう引きは弱いため、使いたいと思う物はなかった。
それに、ユキチの言葉の通り、今さら装備品をもらっても、ボスを倒した後では宝の持ち腐れではないかと思ったのだが、見慣れぬアイテムによって話は変わってきた。
「破界の護符?」
これの説明を読み終えた者から順に、歓声を上げていった。
「えーと?〈破界の護符〉を使ったものに限り、イベントエリアで入手した装備品を持ち出し可能になります!?」
あんぐりとしている間に、ハルマ達がミッションをクリアしたことがようやく認定されたらしく、運営からの通知が表示された。
これは、ハルマ達だけではなく、全プレイヤーに対して通知が届いているようだ。
『1周年特別イベント〈ドアーズ〉のミッションがクリアされました』
『これにより、イベント終了後、獲得経験値の上限が解放されます』
『更に、レベル40に到達しているプレイヤーに限り、冒険者に新たなクラスを追加することが可能になります』
『クラスにかんしましては、後日、公式サイトにて正式に発表させていただきます』
前半のアナウンスにかんしては、ホッと胸をなでおろす程度の反応しかなかったが、後半のサプライズ告知には、その場の全員が青天の霹靂といった様子で目を丸める。
直後、Greenhorn-onlineが、新たなステージに進むことに、どよめきに似た歓喜の声が沸き上がるのだった。
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