Ver.4/第52話
「さあ! 告知もできなかった緊急配信するぞ! 今日の配信は、間違いなく伝説に残る回となるはずだ! 何と、ハルマが、あの大魔王ハルマが、最近巷で三皇を名乗る問題児軍勢とPVPで対戦するんだからな!」
闘技場の一角で、テゲテゲが配信を始めた。
今回の見届け人を指名されたからである。
闘技場という名の通り、PVPを行うための施設である。ここには、客席も設けられ、戦闘に参加しないプレイヤーも見学することができる。
テゲテゲの周囲には、彼の取り巻きだけでなく、他の動画配信者も集まり、戦闘エリアに視線を向けている。
基本的に、運営の対策も進み、数が少なくなってきたとはいえ、三皇の連中にはプレイヤーイベントを邪魔され続けていたため、はらわたが煮えくり返っている。しかし、それとは別に、こういうお祭り騒ぎを単純に楽しんでいる部分もあることは否めない。
何より、思いがけずに、ハルマが登場してしまったのだ。
興奮するなという方が酷である。
「ルールは、ハルマ対三皇軍による、1対5の変則フルレイドバトル。三皇軍のみテイムモンスターの召喚が可。消費アイテムの使用数に、上限はなし。蘇生薬も使用可だ。ハルマが圧倒的に不利なルール? それは、おれも同感。でもな。このルール決めたのは、ハルマの方だ。どうだ? ワクワクするだろ?」
テゲテゲは、目の前に浮かぶ疑似カメラに向かって話しかける。
この疑似カメラのデザインはいくつか用意されており、テゲテゲが使っているのは、小さな猫に羽の生えたモンスターが、同じくらいのサイズがあるカメラを担いでいるものである。
動画配信を行っている者は、必ず疑似カメラを表示させなければならない。これによって、動画に映り込みたくないプレイヤーを保護するためである。
ただ、映り込んでしまっても、事前に設定しておけば簡易アバターに表示が切り替わるようになっており、その人物を調べてもプレイヤー名や、プレイヤーIDなどが晒される心配もない。また、簡易アバターの姿が映ることはあっても、そのアバターが何をやっているのかは映らないのだ。そのため、戦闘を盗み撮りしても、ただ棒立ちの簡易アバターが映っているだけとなる。
テゲテゲの配信が始まると、ほどなくして闘技場に人が集まり始める。
その中には、チップやスズコ、サエラやコヤといったメンバーも見つけることができた。
テゲテゲの回りでも、好き勝手に予想が飛び交い、活気が出てきた。
ちなみに、こういった話し声は、テゲテゲの配信に拾われていない。設定によって、配信に誰の声を乗せるか、限定することができるためである。
これには、テゲテゲ本人の声も対象に含むことができる。
闘技場の客席に視線を向けると、気になる人物を見つけたらしく、自身のマイクをオフにすると、手を振って呼びかけていた。
「おーい、チップとスズコ! こっちこっち。お前ら、ハルマの知り合いだったんだってな。言ってくれよー」
そこまで付き合いがあるわけではないが、チップもスズコも顔の広いプレイヤーである。テゲテゲとは面識があった。
「いやー。本人が、そういうのは嫌がってたんで、すみません」
「ホント。ハル君って、こういうのは、全力でかかわるのを拒否するタイプなんだけどねえ。何があったの?」
「あ。やっぱり、そういうタイプ?」
テゲテゲも、ハルマの行動を不思議に思っていたため、チップ達なら何か事情を知っているのではないかと声をかけたのだ。
その後、簡単に事の成り行きを説明する。
「「あー。そういうことか」」
話を聞き終えたふたりは、そろって納得の声を上げていた。
「どういうことだ?」
しかし、その答えを聞こうと思ったところで、時間となった。
テゲテゲは、仕方なくマイクをオンに戻すと、視線を闘技場へと向けるのだった。
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