Ver.4/第53話
円形の闘技場、向かい合うようにゲートが作られている。
指定された時間通りに、そのゲートが開かれた。
とはいえ、すぐ戦闘開始とはならない。
ここから3分、作戦タイムが設けられているのだ。
今回は、事前に開始時間が指定されているが、突発的に企画されたり、チーム分けをその場でランダムに決めることも多い。
また、相手の配置や装備などを見て、作戦の変更を余儀なくされる場合もある。
ゲートが開き、先に出てきたのは、三皇を自称する軍勢だった。
きっちり40人。それに、テイムモンスターもそろえている。
どことなく緩慢な動きで、余裕も感じられる。
それも、そのはずだ。
如何に大魔王ハルマが相手であっても、1対80で負ける方がどうかしている。
それに、ハルマの戦いは、とっくに知れ渡っているのだ。
しかも、最大の脅威である、強力なNPCが出てこないときている。
それでも、前衛、中衛、後衛をバランス良く配置、特に前衛の盾職は数を多めに用意していた。
三皇軍の配置がおおむね終了した頃、ようやく反対側のゲートに人影が見えてきた。
ハルマである。
「逃げずにちゃんと来たか! 俺達に勝てたら、何でも言う事きいてやるから、せいぜい楽しませてくれよ、大魔王様!」
三皇軍の中心人物であるフィクサが声を上げると、仲間の集団も下品な笑い声をあげて同意してくる。
それを耳にしながらも、ハルマの歩みは呑気なものだ。
特に目立った変化はない。
片手剣の二刀流という特殊性はあるが、今に始まったことでもない。
……が。
そこで、どよめきが起こった。
三皇軍だけでなく、闘技場全体から、驚きと戸惑いが発せられた。
人影がひとつではなかったからだ。
「は?」
三皇の中でも、中心人物であるフィクサが、思わず声を漏らした。
ハルマの後ろから出てきたのは、チョコット、ナイショ、ニコランダであった。
「おい! 何で、テメーらがいるんだよ!?」
「何で? 俺のパーティメンバーだからですけど?」
「は?」
ハルマの言葉に、反論しようとしたところで、更に愕然とさせられる。
「即席のパーティでの戦闘は、久しぶりだなあ」
「いやー。けっこう、人集まってるね」
「そうですねえ。あれだけ数が多ければ、吹き飛ばし甲斐もありそうですねえ」
「うぇ。何で、あたしまで巻き込まれてるのよ」
遅れて登場した4人組が誰なのか、確かめる必要もなかった。
闘技場の客席で一部始終を配信しているテゲテゲも、思わず興奮しながら絶叫していた。
「うおおおお!! 続いて登場したのは、何と、テスタプラス、モカ、ネマキ、それと、このメンバーで、あの恰好ということは、マカリナだあああ!! 〈大魔王決定戦〉で死闘を演じた8人が、ここに集ったああああ!!」
「おい! テメー! 1対40じゃなかったのかよ!?」
フィクサは、思ってもいなかった事態に顔を真っ赤にする勢いで抗議してくる。
「え? 俺、そんなこと言いました?」
視線を、チョコット、ナイショ、ニコランダに向ける。この3人も、あの場にいたからだ。
「言ってないです」
「言ってないね」
「言っとらんな」
そう。言っていない。40人で相手して欲しい。1対5のパーティ戦。それだけだ。
40人をひとりで相手にするとは、欠片も発していないのである。
何より、ルールから外れたことは行えないため、この場にいるということは、ルールとして認められているということである。そして、このルールは、互いの了承のもと決められたものなのだ。
「テメー、汚えぞ!」
「汚い? この人数差で? おかしいな? まとめてでも楽勝って言ってませんでした?〈大魔王決定戦〉に選ばれた連中なんて、大したことないんですよね?」
直後、悪魔的な笑みが、ハルマの顔に浮かんでいた。
チョコットから何度尋ねられても、負けるところは、想像できないと答えた理由がこれだった。
もともとマカリナとは一緒に行動していた。
モカとテスタプラス、ネマキとも、村で挨拶をしたばかりであった。
そして、チョコット、ナイショ、ニコランダは、関係者みたいなものである。
使い魔を通じて声をかけると、ハルマからの珍しい誘いだからと、誰も断る者がいなかった。
マカリナだけは、最初こそ渋っていたのだが、モカが参戦すると聞いて態度は一変したのだった。
そうして、今に至る。
フィクサ達の慌てっぷりを見られただけで、ハルマもすでに満足してしまっているのだった。
というわけで、戦闘は大魔王の頼れる右腕達に任せようと思っている。
ハルマは、大魔王らしく最後尾に陣取ると、開戦の時を待つのだった。
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