Ver.4/第50話

「はっ! あんなお遊びイベントで大魔王決めるとか、笑わせんな! だいたい、〈大魔王決定戦〉で選ばれた連中、みんな、大したことなかったじゃねーか!」

 誰が口にした言葉なのかまではわからなかったが、確かに聞こえた。声のした方に目を向けるも、直後に沸き起こった賛同者達による下品な笑い声に焦点がぼかされた。

 珍しく怒りのスイッチがオンになっていることを自覚する。

 この言葉に対して、嘲笑をかき消すように反論が沸き起こったので、カッとなった思考が、少しだけ冷静になることができていた。

 その中心にいるのは、どうやら、テゲテゲであるようだ。

 見てみれば、テゲテゲを中心に、チョコット、ナイショ、ニコランダと、有名な動画配信者とその仲間達が、別の集団と言い争いをしていたようである。

「は? 何言ってんの? お前は、ビビッて逃げただけだろ? あ! 逃げたのは、お粗末なテイムモンスターだったな!」

 再び、下品な笑い声が上がる。

 この言葉に、テゲテゲもグッと言葉を詰まらされる。

「オレ達が出てれば、お前らも、他の連中も、まとめてでも楽勝だったわ。残念だわあ」

「お前らごときが、ハルマさんに勝てるわけねーだろ!?」

 それまで我慢していたチョコットが、声を荒げる。

「プッ! あんなの、余裕だわ。何なら、今すぐ相手してやっても良いくらいだわ。あんな小手先だけのカスに負けるとか、お前も恥ずかしいよなあ。オレだったら、このゲーム止めてるわ」

 さすがに、この辺までくると、誰が中心人物なのか、ハルマにも識別できていた。


 ……ので。


「じゃあ、相手してもらって、良いですか?」

 スルスルスルと、対立の中心に向かうと、声をかけていた。

 こういう時、生身の肉体ではないため、接触できないことが、かえって便利であった。何しろ、人ごみをかき分ける苦労をしなくて済む。

「なっ!?」

 急に、にゅっと顔を出してきた人物に視線が集まり、悪態をついていた男は、ギョッと目を見開いた。

「え!? ハルマさん!?」

 チョコットが思わず発した言葉に、その場の空気が一気にざわつく。

「はい。ハルマです」

「ハルマ君。どうして、ここに?」

 チョコットに続き、ナイショも目を丸くしながら尋ねてきた。

「いやー。ただの偶然です。鍛冶ギルドに行こうと思ってたら、たまたま話が聞こえてきたので」

 チョコットだけでなく、ナイショまで突如現れた人物をハルマとして扱う。それは、つまり、本物であるということを意味している。

 悪態をついていた人物も、まさかハルマ本人が登場するとは思ってもいなかったらしく、目が泳いでいる。

 このままでは逃げられるなと感じ取ったハルマは、先手を打った。

「ザッと見たところ、そちらは100人以上はいそうですねえ。俺も、そんなに暇じゃないんで、40人まとめて相手してもらっていいですか? できますよね? 闘技場で1対5のパーティ戦って?」

 闘技場は使ったことがないので、正確な仕様は把握していない。そのため、知っていそうな人物に視線を向ける。

「で、できるけど……。え? まとめて相手するの?」

 答えたのは、テゲテゲだった。

 ハルマが突然現れたことにも、まだ動揺が収まっていない様子である。

「ダメですかね?」

 何でもないという風にコテリと首を傾げるハルマに、テゲテゲ陣営も、対立陣営も困惑の表情を浮かべる。そして、それぞれ、別の思惑を必死に考えているらしい。

「で? 相手してもらえるんですか? 何なら、こっちはテイムモンスターなし、そちらはありでもいいですよ?」

 トドメと言わんばかりに、追加の条件を提示する。

「てっ、テメー! バカにしてんのか!?」

 いつの間にか、挑発していた側と、挑発されていた側が入れ替わっているのも気づかず、目の前の男は声を荒げた。

 ハルマは、ニヤリと口を歪める。

「えー? この条件でも逃げます? テゲテゲさんバカにしてたくらいですから、逃げませんよねえ?」

 この言葉で、対戦は実現することになるのだった。

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