Ver.4/第37話

 全てが灰燼と化す中、奇妙な鉄塊のオブジェだけがその場に残っていた。

 無音の世界で、寂しく立っていた人の形をしたオブジェだったが、しばらくすると突然動き出したではないか。

「ぷはー! ビックリしたあ!」

 ハルマだった。

 エンシェントヒュドラの自爆の直前、重なった偶然によって彼は生き残ることに成功していたのだ。

 1つ目の偶然が、マークが伝説の勇者を召喚したことだった。

 出現率0.08%、時間経過による確率変動によって、最大に上がったとしても8%というレアキャラなだけあり、使えるスキルはどれも一級品である。

 そして、2つ目の偶然も、この伝説の勇者に関係する。

 マークの〈パラパラ〉によって召喚されるNPCの行動は、全てAIによる自立型である。そのため、どんな行動をするのかは指定できない。

 一応、最適解と思われる行動をするようにはなっているのだが、それでもこちらの要望通りの行動をしてくれることは半々といったところなのだ。

 そこにきて、伝説の勇者である。

 エンシェントヒュドラの自爆を前にして、使ったスキルは〈祝福の盾〉であった。これは、〈大魔王決定戦〉でテスタプラス達がモカの攻撃を無効化するために使った〈聖陣の盾〉の上位スキルで、どんな攻撃ダメージも70%カットするというものだった。つまり、数少ない自爆ダメージを軽減できるスキルのうちの1つを、たまたまなのか、計算してなのかわからないが、使ってくれたというわけだ。

 しかし、当然、これだけでハルマが耐えられるはずはない。

 3つ目の偶然が、近くにユララがいたことだった。

 あの瞬間、咄嗟にユララに〈鋼鉄化〉のスキルを使わせていたのである。

 伝説の勇者の〈祝福の盾〉だけでも、ユララの〈鋼鉄化〉だけでも、エンシェントヒュドラの自爆に耐えることはできなかった。大魔王だというのに、勇者の助けを借りて生き延びたというわけだ。

 この2つが重なることがなければ、両者敗北によって、イベントボスクリアはできなかったことだろう。

 このことに、ハルマ自身は気づいていない。単純に、〈鋼鉄化〉であれば、もしかしたら? と、考えただけである。

「ん? 何か、スキル取得してるな。まあ、いいか。とりあえず、時間切れになる前に生き返らせないと……」

 ハルマは、死体オブジェとなって近くに転がる仲間達に蘇生薬を使い、復活させていく。戦闘中であればどれだけ時間が経過しても蘇生できるのだが、戦闘が終わってしまうと、5分以内に蘇生しなければ死に戻りとなってしまうのだ。

「あ。蘇生薬、足らないや」

 戦闘中も大量に使ってしまっていたため、途中でなくなってしまった。

「ああ、いいわよ。後は、あーしが蘇生する。にしても、やっぱり、天然不思議少年は、何やるかわからないわね。どうやったら、生き残れたのよ?」

 コヤが蘇生を引き継ぎながら問いかける。これには、他のメンバーも興味津々なのだが、肝心のハルマも鉄の塊になってましたとしか答えようがないので、正直に伝えるだけだった。


「へえぇ。ユララちゃんって、そんなこともできたのね」

 話を聞いていたモカも感心し切りである。

 そうやって一頻り長時間の戦闘を互いに労っていたのだが、ふとテスタプラスが奇妙なことに気づいていた。

「あれ? でも、おかしいな?」

「どうしたんですか?」

「いや。今までだったら、イベントボスに勝ったら、拠点化が進むはずなのに、変化がないなと思って」

「そういえば、そうですね」

 言われて回りを見渡してみる。確かに、今までであれば、イベントボスを倒した後には砦の管理権が移行し、プレイヤーにとってはセーフティエリアに推移していた。

 ところが、エンシェントヒュドラを倒したというのに、何の変化も起こっていないのである。

 テスタプラスとハルマだけでなく、その場の全員が「うん?」と、首を傾げていると、思わぬ人物がその場に現れた。

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