Ver.4/第29話

「これだけ上質の紙ができたら、アレの修復もできるかな?」

 元の折り紙に戻ったドラゴンの置物を部屋の中に飾りながら、更に次の作業へと頭の中は切り替わっていた。

 今までにも、何度か挑戦してきたのだが、紙の質が条件に届かず、ことごとく失敗していたものがあるのだ。

 ハルマは、インベントリに仕舞いっ放しになっていた1冊の本を取り出す。

 ずいぶん前に、図書館でもらった魔導書である。

 分厚い本だが、飛び出す絵本という構造であるため、ページ数自体はそんなに多くはない。

 問題は、その飛び出す絵本の仕掛けがあちこち壊れて、ボロボロなことだった。

 ただ、修復できたとしても、ハルマのステータスでは、魔法を使いこなせる気がしなかったため、根気強く続けてきた、というわけでもなかった。

「えーと?〈紙細工〉でパーツ作ってからだったかな?」

 作業のやり方を思い出しながら、魔導書を調べる。破損している部分のパーツが判明すると、〈紙細工〉のスキルで新しい物を作り上げる。

 それを、更に〈紙細工〉のスキルを使って取り換える。

 今までは、この段階で取り換えたパーツの強度が足らずに失敗扱いになっていたのだが、〈統合〉を使った紙で挑戦してみると、初めて成功することができていた。

「よし! 一歩前進。このまま、やれるだけやっちゃうか」

 ちまちまとした作業の連続だった。

 どこが破損しているのかを丁寧に調べ、必要なパーツを作る。そのパーツも、ほとんどが小さなものだ。〈紙細工〉のスキルで使うピンセットを器用に使いながら、破損部分を取り除き、新しいパーツを取り付ける。

 おそらく、ハルマのDEXがなければ、非常に困難な作業であっただろう。

 ただ、こういう作業は嫌いではない。

 むしろ、没頭しすぎて、あっというまに数時間が経っていたほどだった。

 時々、マリーのイタズラに邪魔されながらも、気づけば、深夜。いつもであればとっくにログアウトして、眠りについている時間になってしまっていた。

「これで、完成……だよな?」

 30ページにも満たないながらも、見開き全体を使った緻密な細工がちりばめられた見事な絵本だった。

 どうやら、様々なドラゴンと戦う冒険者達の物語のようだ。

「しかし、絵本とはいえ、文字はないんだな」

 隣で、マリーとエルシアが興味深そうに覗き込むのを横目に、最初から最後まで確認がてらページをめくる。

 物語を記す文章がないため、どんな内容なのか、想像するしかないが、飛び出す仕掛けを眺めるだけでもじゅうぶんに楽しめた。

 ……と。

「あれ? そういえば、これ、魔導書だよな? 確か、強力な魔法が封じられてるって、言ってなかったっけ?」

 現状、何の効果もなさそうである。装備品としても使うことができなさそうである。

「まあ、いいか。明日にでも、図書館に行って聞いてみるか」

 長時間集中していたこともあり、気づいていなかったが、ひと段落ついたことで、眠気が襲ってきた。

 大人しく、この日はログアウトし、眠りにつくことを選択するのだった。

 

「こりゃ、魔力が足りてないね」

 翌日、学校も休みだったこともあり、朝からウォータニカの図書館を訪れていた。初期エリアの町には、どこも図書館があったのだが、なんとなく、この本をもらった相手に尋ねるのが筋な気がしたからだ。

「魔力……ですか」

 どことなく、子どもの頃に読み聞かされた、絵本に登場する魔法使いとイメージが重なる受付の老婆に視線を向ける。

 どうやったら、魔力を回復させられるのかも尋ねてみるが、知らないと返されるだけだった。


「魔力の回復……ねえ?」

 スタンプの村に戻り、自室で魔導書を前に腕を組む。

「魔力の回復といえば、MPポーションだけど、相手は本だもんな。使えるはずが……な、い? あれえ?」

 無理とは思いながらも、物は試しとMPポーションを取り出したところ、使用相手の選択欄に見覚えのない名前が表示されていた。

「マークって誰だ?」

 そんな知り合いがいただろうか? と、念のためにフレンド一覧を確認してみるも、見当たらない。しかも、今現在、スタンプの村にいるプレイヤーも、ハルマだけである。

 つまりは……。

「この本、名前あるの? ってか、使える? え?」

 軽く混乱しながらMPポーションをマークに使ってみる。

 すると、しっかりMPポーションは役割を果たし、本の中に魔力を送り込む。

 しかし、変化は起こらない。

「回復が足らないのか?」

 乗りかかった船である。えーいと、インベントリに収納されているMPポーションを次から次に使っていく。

「おいおい。何本使わせる気だ?」

 使っても使っても、何の反応も起こらない。

 途中から、無駄なことをしているのではなかろうかという不安に襲われるも、手を止めない。

 もしも、自分でMPポーションが作れなかったら、きっと早い段階で諦めていたことだろう。

 最初の頃はハルマのINTも低く、〈魔力超錬成〉どころか〈魔力錬成〉も覚えていなかったため、回復量は40だったのだが、今では60まで回復できるようになっている。ただ、これがマックスらしく、MPポーションよりもMPハイポーションに需要は移っている。

 ちなみに、ハルマの作るMPポーションは、質の悪いMPハイポーションに匹敵する回復量である。

 それでも、ハルマの場合は最大MPが低いため、まだまだ通常のMPポーションで事足りている。そのため、自分用に大量に作り置きしてある。

「もう、30本以上使ってるぞ?」

 不安を通り越して、意地になってきた。

 そうして、40本を超え、50本目に達した時だった。

「!?」

 ビクッと体が震えた。

 唐突に、マーク、魔導書から光が溢れ出したからだ。

 徐々に光が収まると、魔導書に変化が起こっていた。

「おはようございます。あなた様が、吾輩の新しいご主人様ですな? 吾輩はマーク。召喚魔法を封じられし、偉大なる魔導書でありますぞ」

 表紙に目と口が浮かび上がり、ハルマに話しかけてきた。


『クエスト/偉大な魔導書をクリアしました』

『クリア報酬として、マークとの盟約が結ばれました』

『詳細はなかまメニューから確認できますが、テイムモンスターと同じ扱いになります。また、装備品として使うことも可能です』


「うん……。よろしく……」

 目を丸くしながら、辛うじてそれだけ口にするハルマであった。

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