Ver.4/第24話

「なーんで、今まで思いつかなかったんだろう?」

 魔界から出て、スタンプの村に戻ると、自宅で早速作業を始める。

 とは言っても、ひとつのスキルを使うだけだ。

「これ、〈贋作〉で複製できるといいけどなあ」

 もともと、このスキルを魔王のエンブレムで交換しようと思ったのは、生産職の分野での利用を想定してのことだった。しかし、実際に使ってみると、その方向性では使い勝手があまり良くなく、もっぱら戦闘中に仲間を増やすことに使っていたため、すっかり忘れていた。

 ハルマは鉤縄を取り出すと、ひとつ息を整え、〈贋作〉を使用した。

 直後、ハルマは思わずニヤリと笑みを浮かべてしまった。

「できたー」

 素材が揃っているか不安があったが、鉤縄の構造自体はいたってシンプルである。レア素材はあまり必要ないとは予想していた。

 直後、視界の中にアナウンスも表示された。


『鉤縄のレシピを覚えました』


「思った通り、レシピ自体はシンプルだな。金属のインゴット、草系素材、スライム粘液、糸系素材か。これを発展させて、ロープが作れるといいんだけど……」

 その後、魔界に戻ることなく、自宅でレシピの研究を続けた結果、ついにロープと呼べるものが完成した。

「できたー! ……できた? いやいやいや。なんか、思ってたのと違うのができたな……」

 素材の種類、手順、割合を様々試し、レシピが反応したのは2時間くらい経ってからのことだった。正直、たった2時間でできたことに、驚きを覚えたほどなのだが、生まれたアイテムは、ロープはロープでも、金属のロープであった。

「いや、重っ! 俺のSTRじゃ使えねえ! これ、調整したら、どうにかなるのか?」

 そこから更に作業を進めようと思ったが、次の日も学校があるため、後ろ髪を引かれつつも、この日はログアウトを選択するのだった。


 翌日も、魔界に向かう前に、金属ロープの改良を目指して作業を始めた。

 装備品のレシピと違い、こういったレシピはアレンジの幅が広い。そのため、基本的に使う素材の量を調整するだけでも、変化が起こることが多いのだ。

「一応、俺が使える重さにまで軽量化できたけど、単純に細くなっただけなんだよな。まあ、ワイヤーだったら、このくらいの細さでも、強度は問題ないか?」

 直径3センチほどあったワイヤーを、えんぴつよりも細い太さにまでしないと、ハルマのSTRでは持ち上げることができなかった。

 現状、これ以上の改良は難しいと感じたのと、実際に使ってみないことには使い勝手もわからなかったこともあり、一度、外で試してみることにした。


 スタンプの村から出て、森を抜け、一番近い山岳エリアを目指す。

 山岳エリアといっても、小高い丘陵地帯といった程度で、高低差はさほどない。それでも、〈クライミング〉を使えそうな崖を見つけると、早速試してみることにした。

 ペグを取り出し、ピッケルハンマーで打ち付けると、出来上がったばかりのワイヤーロープをつなぐ。

 そして、地面に足をつけたまま、ロープに体重を預けてみる。

「お? お!? うお!!」

 呆気なく、ロープは引き千切れてしまった。

「えええ……。強度低すぎないか?」

 千切れてロストしてしまったのを目の当たりにして、ポカンと口を開けてしまう。出来上がった時から頼りなさは感じていたが、ここまでとは思っていなかったのである。これでは、ワイヤーというよりも質の悪い針金である。

「こりゃ、根本的に考え直さないとダメだな……」

 気を取り直して、一旦、魔界に向かおうと思ったが、そこで思わぬことが起こった。

「お?」


『スキル〈トラップⅢ〉にバインドトラップのレシピが追加されました』


「ほー。束縛系のトラップか。使えそう……だけど、このロープの強度じゃ、効果なさそうだな」

 このトラップを有効活用するためにも、ロープの改良は必要になったが、結局のところ、同じ問題にぶつかってしまったため、気分転換のために魔界に向かうことにするのだった。

 

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