Ver.4/第25話

「遅かったじゃない。っていうか、昨日は、なんだったの? 急にどっか行っちゃったけど」

 すでに遅い時間だったこともあり、拠点で作業していたのはマカリナだけだった。他にモカやネマキも来ているらしいが、外で暴れながら素材の収集を行ってくれているらしい。

「いやー。蘇生薬の特許の話で、思い出したことがあって、色々試してたんだよ。そうだ。お礼に、これ、リナにあげるよ」

 そう言うと、ロープを作る過程で作ることになった鉤縄を取り出す。ハルマが見つけた鉤縄は取引不可のものだったが、レシピ化されたものであれば問題ない。

「え!? いいの? って、お礼?」

「リナのおかげでレシピ覚えたからね。おかげで、ロープのレシピも見つけたよ。まあ、実用に耐えるロープは、まだできてないけど」

「あたしのおかげ?」

 何かしただろうかと首を傾げるマカリナに、ハルマは微苦笑を浮かべるばかりだ。

「何よ、気持ち悪いわね。まあ、いいわ。いちいちハルに驚いてたら、身がもたないってことは、理解してきたから」

「ひどい言いようだな。……否定できないけど。それで? リナは何やってるところ?」

「何って、ハルが拠点拡張しちゃったから、戦力増強のために走り回ってるところよ。もう、作っても作っても全然足らない」

「え? 装備品って、NPCに素材渡して作ってもらえばいいんじゃないの?」

「そうなんだけど、今まであんまり強化してこなかったじゃない? そのせいで、職人NPCの熟練度が上がってないのよ。低級の装備なら数が作れるんだけど、中級になると、途端に生産効率落ちちゃうの」

「あー。なるほど。この辺のモンスターだと、中級じゃないとキツイか」

「だから、装備品がそろうまで、ハルは拠点の強化の方お願いできる? 職人NPCの熟練度上げは、あたしがやるから」

「おっけー」

 仮オープン中の魔界では、生産職に力を入れているのはこのふたりしかいないため、作業を分担しながら進めていくのにも慣れてきた。

 基本的に、マカリナ主導で分担が決められるが、ハルマの方が柔軟に対応できるという信頼関係あってこそのものだ。

 その辺のことを話し合ったことはないが、ハルマも、自然と受け入れている。こういうところも、ハルマとマカリナの相性の良さを感じるところだ。

 出会ってから、さほど時間は経っていないというのに、チップやアヤネなどと同じような感覚で付き合える良き友人である。

 ハルマは、早速フィールドに出て、拠点の外周を調べて回ることにした。

「前回の襲撃で城門壊されちゃったから、まずは城門だな。あとは、何だ? 城壁の強化は素材渡せばNPCがやってくれるからな……」

 防衛力を高める方法として思い浮かぶのは、堀を作り、水を張ることだが、近くに水源はない。フィールドに追加で防壁を作っても、ハルマが魔界から出ると消えてしまうため効果は期待できない。

「城門強化したら、中の設備をグレードアップさせて、人口増やすのが最善策かな?」

 効果があるのかやってみないとわからない作業に時間を費やすより、すでに効果が判明している作業に時間を費やすべきだろうという結論になった。

 拠点を守る兵士NPCの強さを上げる方法は、装備品をそろえること、その装備品の質を上げること、後は、拠点の人口を増やすことだった。人口が一定数増える毎に集められるNPCのレベルが上がり、強さを増す上に、能力の高い指揮官NPCが見つかる確率が上がるのだ。

 人口を増やすには、拠点の拡張の他には、拠点に設置されている様々な施設のグレードアップによって都市機能を充実させる必要がある。

 方針が固まり、いくつか準備を済ませて、この日もログアウトすることにした。

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