Ver.4/第4話

 魔界への入口が開く前のひと時、オンライン状態であるにもかかわらず、〈大魔王決定戦〉のオフ会のような雰囲気になっていた。

 最初の頃こそ、あちこちで小さな島を作っていたプレイヤー達も、声を掛け合うことで、最後には大きなひとつのグループを形成して昨日の戦いを振り返っていたのである。

「え!? ハルマさんのドラゴンも、ヤタジャオースなんですか!?」

「チョコットさんの使ってたアイスブレス、ヤタジャオースのスキルだったんですね」

 同じ場所で同じギミックに挑戦しながらも、異なる能力を手に入れていることに、互いに驚き合ったり、マカリナ達の、〈敗戦の記憶〉をどうやって無効化したのかの問いに、「ああ。俺、全滅したことないからじゃない?」と、平然と答えたところで、その場の全員から唖然とされたりと、和気藹々としていると、新たに誰かがやって来た。

 すでに魔界に行けるメンバーはそろっているので、全員が不思議そうに目を向けると、相手の方は少々罰が悪そうに口を開いた。

「もう、皆さんそろっていたんですね。遅くなりました。私、開発運営チームで、チーフプランナーをしている白石と申します。本日は、魔界に向かっていただく前に、少しだけ説明させていただくために参りました。今回、参加されなかった方には、手紙等でご案内させていただくつもりでしたが、その必要はなさそうですね」

 思わぬ人物の登場に、プレイヤー達は居住まいを正す。

「ああ! そんなに大したことを説明しに来たわけではありませんので、気軽にお聞きください。本来は、しっかりテストプレーを済ませた上で、準備万端の状態で、皆さんに遊んでもらう予定だったものを、安藤の気まぐれでこういうことになったので、実は、まだ仮の状態なんです。なので、まずは、謝罪をさせていただきます。本当に、申し訳ございません」

 白石は、そこで深々と頭を下げた。

 しかし、そのことに不満を口にする者はいなかった。

「え? いや。βテストみたいなものってことですよね? 全然、問題ないっすよ? むしろ、大歓迎です。なあ? テスピー」

「そうだね。一足先に冒険できるだけで、満足ですよ」

「だいたい、テスピーの名前だって、βテストのテスターが由来だもんな」

「そうそう」

 リュウタローとテスタプラスのやり取りに、他のプレイヤーも頷いて見せる。

「そう言っていただけると、ありがたいです。では、本来はアップデート情報でお知らせする項目について、口頭で説明させていただきます。ただ、本来より少人数で向かうことになってしまいましたので、規模は大幅に縮小させていただいています。そのため、もはや別ゲームになってしまっていますので、今回の経験が、実装後の参考になるかは、ちょっと怪しい部分も多いですので、そこは、ご了承ください」

 ホッとした表情を作ると、用意してあった原稿を読みだし始めた。


「ってことは……? 魔界は、大型コンテンツ、って感じ?」

 白石が語った内容を反芻しながら落とし込んでいく。

 魔界は、魔王が勇者に倒されたことで、混沌とした世界になっており、とある一族とモンスター達の戦いが続いているそうだ。

 プレイヤー達には、その一族に協力して、襲い来るモンスターの軍勢を食い止め、魔界を平定して欲しい、ということらしい。

「その認識で、間違ってないと思います。まずは、皆さんには、その一族が暮らす土地まで向かっていただき、話を聞いてもらえれば、と思います。あと、すみませんが、先行公開ですので、本来追加しているアイテム等は入手できないようになっていますので、ご了承ください。アイテム等の持ち出し、持ち込みも制限がかかっていますが、向こうで使用したゴールドは、期間終了後に全額返還しますので、ご安心ください。経験値とゴールドは、少し調整したものになりますが、入手できますので、最終日まで楽しんでいただいても、成長が大幅に遅れるということはないと思いますので、そちらも、ご安心ください」

 注意事項等の説明が終わると、白石は外部と連絡を取り、転移門を準備する。

「これも、本格的に実装した後は、違った形で魔界との行き来ができるようになりますが、今回は、こちらをお使いください。それでは、大魔王、及び、魔王の皆さま、魔界をお願いします!」

 そう告げて、白石は姿を消したのだった。

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