Ver.4/第5話

 転移門の前に全員が移動を始める。

 ハルマも、マカリナやモカなどと一緒に談笑しながら向かうが、先に向かった一団が転移門を調べた途端、笑顔を浮かべているのが目に入った。

 早速、不具合だろうか? まだ、準備ができていないのだろうか? と、思っていると、徐々に視線がハルマに集まってきた。

「ん?」

 小首を傾げていると、代表してテスタプラスが口を開いた。

「運営も、粋なことをしてくれるよね。この転移門、大魔王のエンブレムを使わないと、封印が解けないみたいだよ?」

 指し示めされた転移門に目をやると、見覚えのある形の窪みがあるではないか。

「大魔王様、お願いします!」

 ぽかんと口を開けていると、隣のモカが傅きながら恭しく告げてきた。それを見た、他のプレイヤー達も、モカに倣って傅いてくる。

「ちょ、ちょっと! やめてくださいよ!」

 慌てて大魔王のエンブレムを取り出し、転移門に近づける。

 ピタリとはめる必要もなく、ほどほどのところで変化は起こった。

 オーラのような、瘴気のようなものが転移門を包むと、門の中から光が溢れ出した。

 転移門が起動したのは明らかであるのに、誰も動こうとしない。

 ハルマは、イースターイベントのフルレイド戦の後、誰もドロップアイテムを取りに行かなかった時のことを思い出し、やれやれと肩をすくめる。

「じゃあ、新たな冒険に向かいましょうか」

 大魔王としての台詞にしては、ずいぶん威厳のない言葉だが、その場の全員がニヤリと笑みを浮かべながら頷いていた。


 門をくぐると、目の前には見たことのない世界が広がっていた。

 プレイヤーが足を踏み入れるのは、初めてなのだから、それも当然だ。どこの国の文化にも属さない建造物。色彩も、どこかぼやけた薄暗く感じるものだ。

「ここは……?」

 ハルマに遅れて、次から次に転移してくる。

「町の中? って、雰囲気でもないねえ?」

 モカも回りを見渡し、状況の把握に努める。言葉の通り、周囲に建造物は目に入るが、誰かが暮らしている雰囲気はない。どちらかといえば、遺跡に近いのだろうが、それにしては古びた感じもない。

 全員がそろい、さて、どうしようかと悩み込む前に、どこからかNPCが近寄って来た。

「ついに! ついに成功したんじゃな!」

 見たことのない風貌のNPCは、やってきて早々、わなわなと感動に打ち震えている様子だ。

 人間ではないが、エルフやドワーフといった見慣れた種族でもない。肌の色は紫がかっており、魔族なのかとも思うが、角や牙といったものも見当たらない。その代わり、触覚のようなものが額から2本伸びている。

「どういうこと?」

 尋ねてみると、答えはシンプルだった。

 ラヴァンドラと名乗ったNPCの言葉に従い、自分たちの足元に視線を落としてみると、何やら魔法陣が用意されている。

 どうやら、このNPCの召喚によって、呼び出された、という扱いのようだ。

「この世界は、古の魔王が異世界の勇者に倒されたことで、統治を失ってしまって、我ら一族は、長いこと魔物と領土を巡って争っているのじゃよ。頼む! どうか、わしらに力を貸してくれまいか!?」

 こうしてクエストが始まった。

 まずは、彼らが拠点にしている場所まで移動しなければならないらしい。

 一行は、別々に行動する理由もあまりなかったため、集団で向かうことにするのだった。

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