Ver.3/第59話

 九十九折とまではいかないまでも、クネクネとした細い山道を登った先にあったのは、湖を取り囲むように大量のテントが並ぶ集落だった。ただ、事前に聞いていた通り人影はなく、多くのテントが倒壊してしまっている。たっているテントも、大部分が破れて中身が丸見えのものばかりだ。

 それでも、山を登る間にも鳥系のモンスターにたびたび襲われていたが、ここでは魔物の気配はなく、一種のセーフティエリアではあるようだ。

 ハルマは早速、大工スキル用の〈じょうぶな木づち〉を取り出し、テントの破壊を試みたが、残念ながら不壊オブジェクトであった。

「ダメみたいですね」

〈じょうぶな木づち〉によって破壊、回収した時、たまにレシピを覚えることがあるので、それを期待しての行為であったが、空振りに終わる。

「そっかー。やっぱりイベント用のエリアっぽいから、壊せないか」

 最初からスズコ達も可能性が低いことは伝えていたが、少し申し訳なさそうな表情を見せる。

「気にしないでください。それにしても、本当に妙な所ですね」

 気を取り直し、改めて周囲を観察する。

 山の中腹にできたカルデラのような場所で、窪地になっており、天然の壁が集落を取り囲んでいた。

 中央の湖は、小規模なカルデラ湖なのだろうか。

 湖を囲むようにテントが並び、いくつかの小屋も点在していた。

「この小屋に入れれば何かわかるのかもしれないけど、鍵が掛かっていて入れないのよね」

 5人で見回っていると、とある小屋の前に立ち止まり、スズコが教えてくれた。どうやら、この小屋だけ倒壊を免れているらしい。

「鍵……?」

 質素な小屋の入口に目をやると、木製のシンプルなドアに鍵穴があるのが見えた。

「俺、開けられるかも」

「「「「え?」」」」

 エルシアの館で取得した〈開錠〉のスキルで覚えたレシピによって、ピッキングツールの作り置きはある。問題は、カギの掛かった扉に遭遇することがなく、全く成長していない点だ。

「たぶん、シンプルな鍵だと思うから、いけるんじゃないかな?」

 ハルマの発言に驚く面々を置いて、早速作業に取り掛かると、ものの数秒で手応えがあった。

「よし! いけた」

 満足そうな表情を作りドアノブを捻ると、スッとドアは開かれた。

「ハル君。そんなスキルも持ってたんだね」

 スズコは目を丸くしながら、素直に称賛する。

「あー。いやー。マリーのおかげで取れたんですよ。たぶん、この鍵も、マリーに頼めば開けてくれたんじゃないかな?」

 褒められることに慣れていないせいか、照れながら告げると、さっさと小屋の中に足を踏み入れてしまう。


「こりゃ、また……。殺風景だな」

 最後に小屋の中に入ったゴリが、正直な感想を口にする。

 大柄なゴリが入ると、それだけで一杯になってしまいそうな狭さだ。ただ、床に食器か何かの破片が散乱しているものの、元々物を置いていなかったのか、すっきりとした印象の方が強い。

「奥にもう一部屋あるけど、そっちはずいぶん荒らされてるわね」

 5人は、思い思いに小屋の中を調べることにした。

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