Ver.3/第58話

「あそこだよ」

 転移場所を登録してからも、サエラは同行したままだった。PVP解禁エリアということもあり、頼れる仲間がいる時に散策した方が安全だろうという考えだ。

 これも、スズコの情報を元にした判断である。

 ここ最近、他のゲームからやってきた新規プレイヤーの中に、集団でPVPを仕掛けてくる者がプレイヤーギルドのようなものを作り始め、エリアによっては物騒なことになっているというのだ。

 30分ほどかけて移動してきても周囲の景色に変化はなく、起伏の激しい土地を上り下りしていると、スズコの指さす方角に険しい山が見えてきた。

「あそこの中腹に集落の跡があるんだけど、何も見つからないのよねえ」

 ミコトが説明してくれた。

「え? テントのレシピっていうから、遊牧民的な集落だと思ってたんですけど、山、登るんですか? キャンプ地でもあるんですか?」

 詳しくは聞いていなかったこともあり、予想と違うことに少し驚く。

「そこなのよねえ。雰囲気だけなら遊牧民の集落って感じなのよ? モンゴルのゲルというか、ベルテントの方が近いかな? そんな感じの家が残ってるんだけど、何を目的に移動していた集落なのか、さっぱりわからないのよね。少なくとも、レジャー目的のエリアって感じではないわね」


 切り立った岩山を登っていく。

 おそらく、案内がなかったら、この山道を見つけるのには苦労したことだろう。

「こんな道、よく見つけたわね」

 サエラも同じことを思ったようだ。

「ノジローは不満言ってたけど、あたしら、れっきとした探検部だからね。わりと登山なんかは好きなのよ。この辺を散策してた時に、たまたまこの山見つけて、登ってみようって話になったの」

「〈クライミング〉のスキルを取るのに適した斜面がないか、この辺ぐるっと見て回ってたら、偶然この道を見つけたんです」

 スズコに続いてゴリが口を開く。

「へー。〈クライミング〉なんてスキルあるのね。確かに、あったら便利そう」

「俺もそれ欲しいかも。どうやったら取得できるんですか?」

「条件はわりと普通だね。一定以上の傾斜がある崖を、一定以上の高さ自力で登る、だったかな?」

「なんだか、すごいアバウトな条件ですね。まあ、〈発見〉なんも似たような説明か……。でも、それなら簡単に取得できそうなのに、聞いたことないな?」

 ユララが釣り糸にからまって動けないのを助けるために崖を登ったことはあるが、あの時はトワネに運んでもらったというのが正確なので、スキルを取得できなかったのだろう。

「それがね。試してみるとわかるけど、アバターの体だとめちゃめちゃ難しいのよ。あー、でも、ハル君だったらいけるのかな?」

「俺?」

「条件満たすにはSTRとDEXが必要っぽいのよ。特にDEXの方が要求値高くてね。それであたしらも苦労してるところ。ああ、でも、ハル君の場合、STRが足らないかな? ミコトもそれでアウトだったもんね」

「そういうことか……。たぶん、スズねえの言う通り、STRが足らなさそう。ミコトさんより低い自信ありますもん」

「ふふふ。変な自信ね。でも、STRとDEXが足らなくても、ナツキちゃんみたいにリアルでボルダリングやっていて、プレイヤースキルが高いと条件達成できるから、私達でもクライミング用の道具がそろえば、いけそうな気はするのよねえ。でも、〈クライミング〉で覚えるの、ペグのレシピだけみたいで情報収集中」

「ペグ?」

 知っているような初めて聞いたような言葉に、首を傾げていると、ゴリが教えてくれた。

「こんな岩山の崖を登る時に、岩の割れ目なんかに打ち込んでロープを固定するのに使う金具のことだよ。冬山で氷に打ち込んで使うタイプもあるね。これだけでも手掛かりや足場としても使えるけど、肝心の打ち込むハンマーも出回ってなければロープも出回ってないんだ。普通の装備品にあるハンマーだと威力が高すぎて、岩場ごと粉砕しちゃって……。そうだ! ハルマ君、作れない?」

「どうですかね? 小型のハンマーは作れるかもしれませんけど、ロープは派生しそうなレシピに心当たりないですね」

 カラビナの付いたロープを引っかけるクライマーの映像を思い出しながら告げると、3人とも食いついてきた。

「「「え!? ハンマー、作れそうなの!?」」」

 あまりの勢いにたじろいでしまう。

「あ!? いや、どうだろう? ごめんなさい。ぬか喜びさせたかも……。試してみないと、わからないです」

「いいの、いいの。いつでもいいから、作ってみて」

「了解です。俺も興味あるから、帰ったら早速挑戦してみますね」

 そんなことを話しながら険しく細い道を登っていくと、本来の目的地へと到着したのだった。

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