Ver.3/第60話

「何かあった?」

 しばらくしてスズコが声を上げる。

「メモ? なら、ありました」

「私も」

「あ、わたしも見つけた」

「俺もです」

 スズコも同様にメモを見つけているらしい。ゴリ、ミコト、サエラが2枚ずつ、ハルマとスズコが1枚ずつの計8枚。そして、最初の狭い部屋に戻ったところで、もう1枚見つけることができた。


イ-①『黄色い羽飾りのあるテント』

イ-②『青い旗が3つ飾ってあるテント』

イ-③『緑の本棚を置いてあるテント』

イ-④『ハンモックのあるテント』

イ-⑤『獅子の置物があるテント』

ロ-①『黄色い本棚を置いてあるテント』

ロ-②『チューリップの鉢植えがあるテント』

ロ-③『クローバーの敷物があるテント』

ロ-④『ギターのあるテント』


「何だ、こりゃ?」

 メモを並べ終えると、ゴリが真っ先に首を傾げれば、ミコトが答える。

「とりあえず、メモの指示に従って、テントを探せばいいのかしら?」

 これが何かのクエストであることは明白だ。何しろ、ハルマでなくとも文字が読めているからである。

 ミコトの考えを否定する要素もなく、一度小屋から出て、それぞれのテントを調べに行くことになった。


「こっち、黄色い羽飾りありました」

「こっちは、緑の本棚あったよー」

 小規模なカルデラ湖とはいえ、多くのテントが立ち並んでいるので、捜索は意外に時間がかかってしまった。とはいえ、湖をぐるりと取り巻く配置で大小のテントが並んでいたので、男性チームと女性チームの二手にわかれて、右回り、左回りで虱潰しに探すことで、目的のテントは全て見つけることができた。

 ……が、そこで行き詰る。

「で? 何か、怪しいものあった?」

 9か所のテントを見つけたのはいいが、そこにはキーアイテムとなりそうな物はなかったのである。

「いやー。追加の指示らしきものは何もなかったと思いますよ? なあ?」

 ゴリは一緒に回っていたハルマに視線を送る。

「そうですね。テントの状態もバラバラで、中に残ってたのも生活雑貨っぽいものばかりでしたね」

「だよね? あたしらの方も同じような感じ」

 スズコの返答に、ミコトとサエラも無言で頷く。

 しばらく5人で検討を重ねたが、決定打に欠ける意見ばかりでモヤモヤが膨らむだけだった。

「と、なると……。何か、見落としてる?」

「あー。やっぱり、そう思う?」

 サエラが観念したように問いかけると、他の4人も観念したようにタメ息を吐き出した。

「でも。あの小屋に他にメモなかったと思うんですよねえ」

 振り出しに戻った感覚で小屋に引き返しながらゴリは告げていた。この意見には、皆、同意する。隅々まで調べるのに時間のかからない広さだ。重要なアイテムを見落としていたとは、あまり思えなかったのである。

「そうなんだよねえ。5人とも見落とすって、あんまり考えられないから、他の小屋にあるのかな? 壊れてるけど、入れないことはないでしょ?」

「あー、なるほどね。確かに、他の小屋はしっかり調べてないか」

「じゃあ、わたし達はそっち調べてみましょうか?」

 ミコトの意見にスズコとサエラが同意すると、行き先を変更した。

「じゃあ、自分はテントと残りの小屋以外の所を調べてみるんで、ハルマ君は鍵の掛かってた小屋をもう一度調べてもらっていいかな? 見落としてた物を見つけられるとしたら、ハルマ君だろうから」

 ゴリは頭脳派の作業よりも、肉体派の作業の方が好きだと言わんばかりに走り出していた。

 ハルマは反論する余地もなかったが、誰かが調べ直さなければならないことは理解しているので、素直に従うことにした。


 小屋に戻り、ひとり見回す。ズキンやニノエも一緒だが、一度に入ると狭いため、外で待機させているのだ。それでも、マリーとエルシアだけは性質上離れられないらしく、ついて回る。

「うーん。やっぱり目ぼしいものはなさそうなんだよなあ」

 荒らされた室内を丹念に調べて回るが、クエストの手がかりになりそうな物は見つからず、一度外に出ようとエントランスの狭いスペースに引き返した。

 と、そこでキラリと何かが光るのに気づいた。

 外を回っているうちに時間が経過し、手の届かない高さにある換気用の小窓から陽の光が差し込んだらしい。雲の切れ目から、太陽が薄っすらと顔を出しているのが見える。

 視線を戻し、何が光ったのか確認すると、割れた陶器の破片だった。

「あれ? さっき探してた時は気づかなかったけど、これにも文字が入って……。まさか?」

 小さな手がかりが一瞬で確信へと組み立てられると、ハルマは急いで床に散乱した陶器の破片を集めるのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る