Ver.3/第37話

「あのクエスト、そっち系のレア報酬だったのか……」

 ピインを仲間に加えてスタンプの村に戻ったところで出くわしたチップ達に説明した直後、3人とも興味深そうな表情になってまじまじとウサギを観察し始めた。言うまでもなく、アヤネだけは口元がだらしなく緩んでいる。

「なんだ。チップ達、知ってたのか?」

「ん? ああ。何回かクエストも受けたことあるぞ。けっこう有名なクエストだぜ? でも、シュンのAGIでも追いつけないし、追いかけてる途中でモンスターにエンカウントするとクエスト失敗になるから、クリア報告は聞いたことないな」

「なるほど……。そりゃ、クリアは難しいな」

 チップの言葉に、自分が思っていた以上に難易度の高いクエストだったことを知る。あの辺に出るモンスターは高いものだとCランクだ。〈発見〉のスキルを持っていたとしても、Ⅳにまで成長していないとエンカウントを回避するのは難しいだろう。

 そうでなくとも、シュンのような回避盾タイプの、AGIが高めのプレイヤーでも追いつけないとあっては、そもそも対処のしようがない。

「それにしても、しばらく大人しいと思ってたら、この短期間で一気に3人も増えるとは……。不落魔王ハルマは、まだまだ安泰って感じだな」

「そうだねえ。この調子で大魔王イベント、がんばってね」

 チップが呆れたように呟くと、シュンもにこやかに続けていた。

「おいおい。知ってるだろ? 初回の集計で公表されてる20人に、俺の名前がなかったことは」

 そう。多くのプレイヤーが意外に思っていたが、前回の〈魔王イベント〉で全勝だった5組のプレイヤーの中で、トップ20に入っていたのはモカだけだった。それも、14位という順位で、〈大魔王イベント〉に出場できる8人の枠に入れるかどうか微妙な状況だったのだ。

「いやー。どうだろうな? 初回の中間発表見て、投票の傾向は変化してるとは思うぜ? さすがに、モカさんもハルマも選ばれないってことはないと思うんだけどなあ。個人的にはテスタプラスさん達は、もっと評価されるべきだと思うし」

「そうは言っても、やっぱり継続して動画配信してる人に票が集まるのは、割と順当じゃないか? 俺としても、ああいう人達の戦いも観てみたいし」

 この辺は大きな議論になっているが、固定ファンが多く付いている動画配信プレイヤーに組織票が集中しているのは明らかだった。

 特に、初回の中間発表で1位だったテゲテゲは、テイムモンスターに逃げられたという伝説的な配信のおかげもあって、元々人気があったのに更に爆発的に視聴者数を増やしている。

 その点、ハルマやモカといった強豪と呼ばれるプレイヤーは、前回の〈魔王イベント〉で全勝だった5組に票がバラけてしまい、得票数は伸びていないようである。

 投票権は各プレイヤー3票、3回に分けて付与されることになっているのだが、4月1日に2回目の中間発表があった後に、最後の投票権が与えられたとしても、この傾向に大きな変化は起こらないと思われている。

「確かに、〈大魔王イベント〉に合わせて、ずいぶん前から投票呼びかけてた人もけっこういるみたいだもんね」

「まあ、アカウントさえあれば、プレー時間関係なく投票できるからな。ああいう人達って、基本お祭り好きだから張り切らない訳ないし……。でもなー。オレは〈大魔王イベント〉は、最強プレイヤー決定戦であって欲しいって気持ちの方が強いんだよなあ」

「人気優先か強さ優先かなんて、どっちでもいいじゃない。どの道、魔王になったことがある人じゃないと選ばれないんだから……。それに、大魔王よ? ただ強いだけの大魔王に、何の魅力があるのよ。カリスマ性があってこその大魔王よ!」

 話題に参加せず、ウサギ姿のピインにデレていたアヤネだったが、話しはきっちり聞いていたらしく、唐突に入ってきた。

 しかも、妙に説得力のある意見に、男性陣は思わず納得してしまうのだった。

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