Ver.3/第38話

「この微妙な感じからすると、エイプリルフールのネタじゃ、ないな?」

 4月1日。午前10時に発表された〈大魔王イベント〉の中間発表を見ろとチップから連絡があったため、嫌な予感がしながらサイトを覗いたハルマは、キュンと心臓が縮まる思いだった。

 まだ、出場枠の8人の中には届いていないが、上位20人の中に登場していたからである。前回の〈魔王イベント〉で全勝だったプレイヤーは軒並み票を伸ばしており、最上位のモカが9位、テスタプラス13位、ネマキ14位、マカリナ19位となっている。そして、ハルマも17位にまで上昇していたのだ。

「まあ、それでも上位陣は前回と顔ぶれ変わってないから、俺が入ることはないだろ……」

 中間発表があるのは今回までで、2週間後に最終発表が行われる。

 初回から2週間経った今回の中間発表までの間に、上位陣に大きな変動がなかったことを鑑みると、ハルマの予想も大きく外れることはないように思われた。

「結果を気にしたところで、俺に何かできるわけじゃないし、出かけるか」


 ちょっとした心のモヤモヤはあったが、ここ数日、ハルマはフィールドをアチコチ探索していた。

 イースターイベントのためではあったが、イースターエッグを集めることが目的ではなかった。

 ピインを仲間にしたことをチップ達に報告した際、イースター・バニーだと勘違いしたことを話したら、「イースター・バニー、出るらしいな」と、チップから教えられたことに由来する。

 ただ、こちらも新規プレイヤー向けの要素らしく、ピインのいたカサロストイ地方クラスのエリアでは確認されていないらしい。

「さて……」

 家を出て、今日はどこを探そうかと思っていると、同時に声をかけてくる人物がいた。

「ハルちゃん、おっはー」

「ハル君、やっほー」

 スタンプの村の住人プレイヤーの最年長と最年少の組み合わせである。

「おはようございます。この時間にふたりともいるって、珍しいですね」

 基本的に、ふたりとも深夜帯でのプレーが多く、午前中からログインしていることはあまりない。

 ふたりは互いに気づいたらしく、挨拶を交わすとハルマに視線を戻していた。

「いやー。だって昨夜、メンテだったでしょ?」

 モカが口にすると、ユキチも「そうそう」と、頷いてみせる。

 オンラインゲームであるので、メンテナンスは頻繁に行われる。昨夜も、アップデートとは別に管理システム系のメンテナンスが行われ、数時間ログインできない状況だったのだ。

「あー、そういうことか」

「そういうこと。で? ハル君、今から何するの?」

「今から、イースター・バニー探しに行こうと思ってる」

「何それ?」

 ハルマの答えに、モカだけが首を傾げる。

「イースターイベントの隠れクエストですよ。ハル君ところのピインちゃんみたいなウサギを見つけて追いかけると、桜並木のスポットに案内してくれるらしいです。イースターエッグも多めに見つかるらしいですけど、季節的な演出の方が強いみたいですね」

 ハルマが教えるより先に、ユキチが説明してくれた。

「へえー。そんなクエストあるんだ。そう言えば、今年はお花見してないな……。ハルちゃん、うちも一緒に行っていい?」

「え? いいですけど、見つかるとは限りませんよ?」

「いいの、いいの。こういう時間にインしてること少ないから、実はまだ頭が回ってなくて……。のんびりしたいと思ってたところなのよ」

「おー。それなら、ぼくも一緒について行っていいです? モカさんと同じく、まだエンジンかからなくて、どうしようかな? って思ってたところだから」

「いいね。よし、じゃあ、行こうか!」

 いつものニッシッシとした気持ち良い笑みを浮かべると、モカは右手を突き上げた。それに応えるように、ユキチも右手を突き上げたので、ハルマも遅れておずおずと同調するのだった。

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