第3章 兎追いし

Ver.3/第28話

 思わぬクエストに遭遇したせいで、当初の目的は結局達成することができなかった。そもそも、あの廃墟群は魔王の手によって破壊され、呪いを受けていたため、ハルマでも建て直すことができなかったのである。

 謎の館のクエストで90分というけっこうな時間も使ってしまったため、モヤシの〈大工の心得〉取得プロジェクトは、一旦お預けとなっていた。


「ごめんなー」

 スタンプの村に戻り、モヤシに頭を下げる。

「いえいえ。代わりに、貴重な体験ができたので気にしないでください」

 モヤシの言う貴重な体験とは、ハルマの特殊性を間近に見ることができた、という意味だったのだが、ハルマはそれを、謎解き脱出ゲームのことだと思い、何だかチグハグな別れとなっていた。

 チップ達ともすでにパーティは解散しており、ようやくひとりになって落ち着いたところで、エルシアとハンゾウのことを調べることにした。

「えーと? エルシアさんはホーリースピリット。やっぱり勇者の母親か。結界術師の一族。結界術師って、何だ?」

 マリーと親子のようにふわふわ浮かぶ上品な女性に目を向ける。

「結界術師とは、そのまま、結界を張れる者のことです。このような身体ですが、初歩的な結界なら張ることができますよ?」

「え!? そうなの?」

「はい。あまり広い範囲は無理ですが、魔物が寄りつけない空間を作ることができます」

「あー。そうやって勇者が育つまで、あの館を結界で守ってたのか」

「その通りです。ですが、あの子を結界の一部に組み込むことで、より強固な結界としていたので、あの子が旅立つと同時に結界も弱まってしまい、そこを魔王に狙われてしまったのです」

「なるほど」


「んで? ハンゾウの方は、っと」

「拙者は、忍者と呼ばれる一族の末裔でござる。魔王に忍びの里が狙われた際、拙者が不死の体になる役目を与えられ逃げ伸びたでござる。それ故、他に生き残りがいるかは、わからぬでござる」

「あ? え? 切羽詰まって不死になったのか」

「それはそうでござるよ。誰が好き好んで、このような不便な体になりたいものですか。この体になったせいで、忍術のほとんどを使えなくなってしまったのでござるから」

「え!? 忍術、使えないの!?」

 スケルトン忍者という、設定が渋滞を起こしているキャラだったので、ひそかに楽しみにしていたのだ。

「拙者が使えるのは、忍びとして修得した体術の他には、変化へんげの術だけでござる。忍びの知識は蓄えていますが、それを使うことはできないでござる」

「それで、俺に化けてたのか」

 ハンゾウの能力を調べてみると、確かに、スキルの欄には武器系のスキル以外には、変化の術しかなかった。他にあるのは、不死の術というパッシブスキルだけである。

「あんまりステータスは高くないんだな。まあ、初期エリアだもんな、あそこ」

 トワネと同じくらいのステータスであることを確認してから変化の術について確認する。

「変化の術は、対象と同じ姿形となり、ステータスも変化した相手と同じになる? ただし、変化できるのは人型に限る? は?」

「拙者、味方であれば誰にでも変化することができるでござるよ。今であれば、ハルマ殿だけでなく、ズキン殿とニノエ殿であれば、変化できるでござる」

「弱キャラかと思ったら、とんだ食わせ者だな……。俺にとっちゃ、条件付きとはいえ、完全に〈贋作〉の上位スキルじゃないか」

 ズキンかニノエが増える。それが、どれだけ戦力アップにつながるか瞬時に理解したハルマは、思わず微苦笑を浮かべるのだった。

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