Ver.3/第27話
「んで? 結局、中で何があったんだよ?」
アヤネの興奮が落ち着いたところで、チップは改めてハルマに尋ねていた。
「なんかな、この館、魔王を倒した勇者が子供の頃に住んでた場所らしいわ」
「「「「「はい?」」」」」
さらりと答えたハルマの言葉に、全員がキョトンと目を丸くする。
「え? この世界、ハル君たちとは別に、ちゃんと魔王がいたの?」
ユキチだけでなく、モヤシもそこから引っかかったらしく、コクコクと首を振っている。
「あー。始めたばかりだと知らないか。オレ達も詳しくは知らないんだけど、あちこちで魔王が勇者に倒されたって話は聞けるぜ?」
「そうなんだ」
チップの言葉に、ユキチは素直に目を輝かせる。
「そういえば、この世界の伝承とか伝説とか、みんなで話合ったことないかも。そのうち、あちこちで仕入れた情報を共有してみるのもいいかもな。っと、今はその辺は端折るな。で、勇者の家系ってことで魔王に目をつけられて襲撃されたんだよ。その時、館ともども、主が魔王に呪いをかけられて、特殊な条件がそろわないと足を踏み入れることができなくなったんだと。で、セバスチャン、じゃなかった、ハンゾウは、たまにやってくる盗賊を追い払うために、謎解き脱出ゲームを仕掛けて、気持ち良く帰ってもらうように仕向けてた、ってわけらしい」
「なるほど……。無理やり撃退するよりも、納得して帰ってもらう方が手間が省ける上に、本当に大事なものを持ち去られる危険性も減るもんね。ボクらは、まんまとハンゾウの策にはまったわけだ……。それで、館の主さんの呪いを解いたんでしょ? その人は?」
ハルマの説明に、シュンは大きく頷きながら問いかける。
「呪いは解けたんだけどな……」
そこで言い淀む。
「主は、魔王に襲撃された時に、すでに亡くなっていたのでござるよ。封じられていたのは魂のみ。ハルマ殿は、主の魂を解放してくださったのでござる」
ハルマがグリーンホーンのペンダントを使い、赤い宝石の呪いを解くと、現れたのは思っていたよりもずっと年若く、美しい女性だった。しかし、その姿は半透明であり、実体を持たないことがすぐにわかった。
「え?」
思ってもいなかった姿に、言葉を失う。
「ありがとう。旅のお方。永劫にも続くかと思われた苦悩から、ようやく解放されるのですね」
「エルシア様。後のことは、わたくしめにお任せくださいませ」
穏やかな瞳の女性の前に、執事服姿のハルマが傅く。
「あなたにも、永い間、苦労をかけました。この館のことは、気にする必要はありませんよ。旅のお方。消えゆく者の、最後のお願いです。どうか、この者も解放してやってはいただけないでしょうか?」
「なりません! わたくしめは、この館を守ることを使命としている者。エルシア様が去られてしまうとはいえ、この館は守り抜きます。そうでなければ、わたくしは……、わたくしは」
「もう、良いのです。いかに優れた術者であろうとも、この館にかけられた呪いを解くことはできないでしょう。この館に固執することはないのですよ?」
「しかし! この館には、あまりにも大切な思い出が詰まっております。どうして簡単に手放せましょうか!」
エルシアとセバスチャンのやり取りが続く中、ハルマは完全に放置されていた。……が、話を聞きながら、腕を組んで解決策を考えていると、目の前でエルシアを説得しようと試みている、ハルマとそっくりな顔の人物の表情に違和を感じていた。
「ああ! わかった!」
ポンと手を手で叩き、スッと腑に落ちる解決策を思いつく。
突然のハルマの反応に、エルシアもセバスチャンも押し問答を止め、視線を向けてきた。
「どうされたのですか?」
「セバスチャンさんは、この館から離れるのが嫌なんじゃなくて、エルシアさんとの思い出を失いたくない、ってことなんでしょ? だったら、エルシアさんと一緒に館から出たらいいんじゃないかな?」
「いや、しかし……。エルシア様はすでに亡くなれた身。天に召されるのが道理です。こうして未だお話ができること自体、奇跡のようなもの」
「まあ、そうなんだけどさ。例外もあるんじゃない?」
ハルマはそこで、近くを浮遊するマリーに視線を向けていた。この世界のゴーストは、けっこうたくましい。
「俺の友だちにもゴーストがいるけど、依代さえあれば連れて行けると思うんだ。と、いうわけで、エルシアさん。俺に憑りつかない?」
「「え?」」
ヤタジャオースの時には相手が邪竜だったこともあり躊躇したが、マリー以上に害のなさそうな人物である。困るようなことにはならないだろうと判断していた。
「「「「「え?」」」」」
話を聞いていたチップ達はそろって目を点にすると、その場にいるはずのエルシアを探し始める。
「ああ。そっか……。マリーの時もそうだっただろ? パーティ組むか、設定するかしないと、見えないんだよ」
その場でパーティを組むと、穏やかな笑みを浮かべる、美しい女性が上品に挨拶してきた。
当然、直後「ズゥルゥいぃぃぃ!!」という、アヤネの絶叫が響き渡るのだった。
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