Ver.2/第63話

 降り立ったのはカサロストイ地方。

 ハロウィンイベントの時にも8人でやって来たが、あれから2ヶ月ほど経っているにもかかわらず閑散としたままだ。

「ここは、相変わらず人が少なくていいねー」

 モカはグッと背伸びをしながら、入ってこない空気を肺に取り込もうとしているように見える。

「まあ、イベントが続いてましたからね。攻略は一休みって人も多いみたいですよ。それに、ガチでレベルが上がらねえ! そろそろ上限解放してくれー!!」

 チップの心からの叫びに、何人かが苦笑いを浮かべる。

 スキル取得による強化も狙ってはいるのだが、ハルマやモカのようにホイホイ強力なものが見つかるわけもなく、苦戦しているのだ。

 魔王イベントの前後から、レベルの上昇はガクンとペースが落ち、月に1つ上がるくらいなものだった。短時間に大量に倒せるモンスターで経験値を稼ぐことが一般的なのだが、この方法だと最初こそ獲得できる経験値が多いものの、すぐに補正が入って減少してしまう。

 経験値、というからには、新たな経験を積まなければならないらしく、作業となった戦いではレベルアップに必要な経験とは認められないのだ。そのため、プレイヤーは常に戦う相手を変えなければならない。

 しかも、現在は新規プレイヤーとのレベル差が広がりすぎないように、獲得経験値に上限が設けられ、意図的にレベルアップしないようになっているのだ。一度に獲得できる経験値が少ない以上、数で補うしかないのだが、寝る間も惜しんでプレーしてしまうと、ペナルティスキルと呼ばれる取得したら満足にプレーできない環境に陥ってしまうため、それにも限度がある。

 ゲームバランスは気にせず作ったというわりに、こういうところはシビアな設計になっていた。

 一体全体、強くなるにはどうすればいいのかと多くのプレイヤーが頭を悩ませているのだ。

 そういった閉塞感に嫌気がさして来ていたこともあって、テイムモンスターに活路を見出そうとしている者は多かった。

「とりあえず、せっかくだから、まだ未攻略のダンジョンから狙ってみますか」

 チップを無視してスズコが提案する。

 攻略済のダンジョンでなければマップには表示されないが、未攻略の門の情報もかなり出そろっている。1つの門に1パーティしか挑戦できない関係で、攻略済みの門は列ができるほど混雑している場所もあり、効率が良いとは言い難い。

 で、あるなら、せっかくこれだけのメンバーがそろっているのだから、未攻略のプラチナ門を積極的に狙うのがベストに思えたのだ。

 スズコの意見に反対意見はなかったが、ハルマはかなり不安に感じていた。

「なあ? 攻城型ってかなり難しいんだろ? 俺が参加して大丈夫なのか?」

 チップがレベルが上がらないことを天に向かって愚痴っているので、近くにいたシュンとアヤネに尋ねる。

「正直、ボクにもわからないんだよね。何回か挑戦してるんだけど、門を閉ざされると、どんなに低難易度の城でも簡単には突破できなくて……。ボクみたいに火力があるわけでも、耐久力があるわけでもないタイプだと、眺めてることしかできないんだよ」

「でも、シュン君の場合、中に入れたら強み発揮できるんだよねー。わたしの場合は逆で、外にいる間はフルで走り回らないといけないけど、中に入ると見通しが悪いから、近くの仲間を回復するくらいしかできなくなっちゃうのよ」

 ハルマだけでなく、シュンもアヤネも内心不安であるらしい。そこに、ひとり追加される。

「そうなのよねー。魔法職じゃないと門を壊すの難しいんだけど、城の中から飛んでくる攻撃も厄介なのよ。そっちを先に倒しちゃいたいんだけど、こっちからの攻撃は届かないっていう、いやらしい造りなのよねえ」

 アヤネと同じ魔法職のミコトだ。

 どうやら、集まった全員、やる気はあるのだが一様に不安もあるらしい。

 ただ、こういう時にグイグイ引っ張る人物がいると、話は良くも悪くも手早く進んでいく。

 スズコとチップの姉弟は、事前に調べておいた門へと向かい、さっさと歩き始めるのだった。

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