Ver.2/第62話

「意外だよねえ。ハル君だったら、とっくに3~4組はそろえてると思ってたよ」

 12月のとある週末。クリスマスも近くなっているというのに、若い男女がそろってスタンプの村に集まっていた。

「スズねえ。さすがに、それは無理っすよ。でも、俺もこんなに苦労するとは、正直思ってなかったですけどね」

 イベントが始まって3週間が経とうとしているが、タロットカードの大アルカナ22種のコンプリートは終わっていなかった。

 早い者は1週間ほどでそろえ終わり歓喜の声を上げているのだが、運良く虹の門に遭遇できなければそれも難しく、手間取っているプレイヤーの方が圧倒的に多いみたいである。

「やっとテイムモンスターが手に入るんだ。最低でも1組はそろえたいよな」

 チップの言葉に、集まった全員が頷く。

 この情報が駆け巡るのに、時間はかからなかった。

 虹の門で運良く多くのタロットカードを収集できたプレイヤーが、早々に1組そろえ終わると、手に入ったのが〈聖獣の卵〉だったのである。

 イベント名が〈聖獣の門〉というわりには、ダンジョン内に聖獣と思しきモンスターが登場していなかったため、一部では予想されていたらしいのだが、この情報によってイベントの活気はグンと熱を上げていた。

 そのせいもあって、なかなか空いている門を見つけることが難しくなっていたのである。

 ただ、〈聖獣の卵〉からテイムモンスターが生まれると判明しているわけではない。どうやら孵化にはそれなりの時間を要するらしく、誰も結果を知らないのである。

 この日は、珍しくスタンプの村の住民が全員そろってインすることがわかっていたため、一緒に高難易度の不人気な門に挑戦して回ろうということになったのだ。

「でも、良かったねえ。足りないカードが似通ってて。まあ、これはうちらに限った話じゃないみたいだけど」

 モカがニッシッシと笑みを浮かべると、これにも全員が同意した。

 つまり、ダンジョン別で1つだけ、攻略が飛び抜けて難しいタイプが存在しているというわけである。

「いやー。攻城型のダンジョン、銅の門でも時間ギリギリですからねー。しかも、銅ばかりでカギを消化するには効率悪いからなー」

 ゴリが頭を掻きながら発言すると、これにも全員が頷いた。

 スタンプの村の住人は性格もプレースタイルもバラバラである。共通点を探す方が難しいのだが、そんな8人の意見がこれだけそろうのも珍しいことである。

 タロットカードが簡単には集められないように、敢えて攻城型の難易度を高く設定しているのかわからないが、ゴリの話す通り、最低ランクのダンジョンであっても攻め落とすのは難しかった。推奨レベルは10であり、確かに守りを固めているモンスターも低ランクのザコモンスターであるのだが、城門を越えられないのである。

 ただ、ハルマに限っては少しだけ違った。

 まだ、攻城型のダンジョンに入れていないのだ。

 攻略が進み、マップに表示される門の数も増えているのだが、〈聖獣の卵〉の情報が出始めてから、以前にも増して門の外で他のプレイヤーとかち合うことが増えてしまい、なかなか挑戦できずにいたのである。

 それでも、チップ達から話だけは聞いていたので、攻城型のダンジョンの難しさはイメージできていたのだ。

「さあ。今日中に何とか集め切るわよ!」

 スズコの号令で、一行は転移オーブを使って移動を始めるのだった。

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