Ver.2/第61話

 カションカションというマシン系モンスター特有の足音が背後から猛烈な勢いで迫っていた。

 ハルマは丁字路を曲がり切った直後、振り向きながら取り出していたアイテムを使用する。

「何とかなれ!」

 ひどく他人任せな台詞とともに、ハルマと警備モンスターの間に壁が生み出されていく。

 使ったのは大工用の壁建材だ。

 ドン、ドン、ドン、ドンと、1メートル四方の壁を4つ、通路の真ん中に並べ、2メートル四方の壁となる。

 これで足止めはできるであろう。これは最初から考えていた手ではあった。

 しかし、採用しなかった理由もちゃんとあった。

 この後が問題だからである。

 カションカションという足音は止まらない。

「こいつの行動パターンが距離なのか歩数なのか、どっちだ?」

 一定の場所まで進むことで進行方向が変わるタイプなのか、一定の歩数動いた後に進行方向が変わるタイプなのか、それによってこの後の行動が変わってくる。

 一定の場所までたどり着かない限りずっと進み続けるのであれば、この壁にぶつかっている相手は、いつまで経ってもここから離れることはない。そうなると、宝物庫に辿り着けないのでアウトである。

 逆に、一定の歩数動いた後に振り返るのであれば、しばらく足踏みした後でここから立ち去ってくれるはずである。

「どっちだ!?」

 祈るように成り行きを見守っていると、ふとした瞬間、壁にぶつかる衝突音が消えていた。

「よし!」

 思わず大声を上げてしまったが、声に反応して戻ってくることはなかった。

「そうだ! 歩数が行動パターンのトリガーなら、この後の行動パターンにズレが出ちゃうのか。このタイミングで抜けないと、どうなるかわからないわ」

 ハルマは遠ざかる警備モンスターの後を追いかけ、走り出していた。


「はあー、良かったあ。壁が役に立ったぁ」

 最後の安全地帯に飛び込み、マップを確認する。

 最後に壁で行動パターンが狂わされた機体はあちこちにぶつかり、予測不能の動きをしていたが、これによってエラー的に他の警備モンスターが集まるということもないみたいである。

 この先、宝物庫までは一本道で、警備も薄い。

 トラップも壁も使うことなく、楽々と宝物庫に辿り着くことに成功するのだった。


「問題は、この後なんだけどね」

 宝物庫に入ると、ダンジョンクリアのアナウンスが表示され、部屋の中央に机がひとつ浮かび上がった。

 例によって、机の引き出しが勝手に開き、中から3枚のタロットカード片が飛び出した。この段階では絵柄は見えず、白紙のカード片である。

 報酬を受け取り門から出ると、早速タロットカードを確認する。

「おー! ラッキー。3枚とも持ってないやつだ。それでも、やっと6種類か。残り何種類だ? 15? 16? しかも、それぞれ3枚集めないとダメなんだよな? 間に合うかなあ?」

 残り3週間。同じペースでは全く足らないと思案に耽るハルマだった。


 更に、直後、潜入型のダンジョンであれば、〈覆面〉でワーラビットになってAGIを高めた方が楽に攻略できたのでは? と、思いついたのは、ここだけの話である。

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