Ver.2/第5話
このダンジョン〈知恵と力が封じられし遺跡〉の正式名称が〈知恵と力で封じられし遺跡〉であることを知る者は少ない。それは、この世界の文字が読めるプレイヤーが極端に少ないのが理由である。
プレイヤーの中では、ハルマだけかもしれない。
もしかしたら、運営スタッフの中でも知っている者は少数かもしれない。
モカの紹介で訪れた時も他のプレイヤーはいなかったが、何度訪れても、同じように閑散としていた。
一時期はレベル上げの美味しい場所としてにぎわったこともあったのだが、現在はここを卒業して他の美味しいポイントへと流れてしまっているのだ。
新規のプレイヤーがここにやってくるまでは、もう少し時間がかかるだろうし、適正レベルのプレイヤーも、ここまでの道のりが長いことで嫌厭する傾向にあり、好んでやってくる物好きは少なかった。
その数少ないプレイヤーであるハルマは、早速、目的のギミックが仕掛けられた空間へと向かう。
部屋の仕掛けは、気づいてしまえばシンプルなものだ。
落ち物パズルの元祖ゲーム。
上からひとつずつ落ちてくる、形の異なるブロックを横一列に隙間なく並べると消えていくアレの要領で、隙間に壁を押し込んでいくだけだ。
ただ、4ブロックで形成された壁を動かすのは、並のSTRでは足らず、ハルマのDEX極振りの脆弱なステータスでは到底不可能である。
そこで、ズキンとラフにも協力してもらい、更にSTR上昇薬とエンチャントSTRによるバフで補うことで、無理やり要求値に到達させて挑んでいる。
ところが、このギミックのいやらしいところは、壁を消していくと思わぬところで複雑な形状の凹みが用意されている点にあった。
部屋に散らばっている動かせる壁には限りがあり、考えなしにポンポン消していってしまうと、後々必要な形状の壁がなくなっていたり、移動不可能な場所に取り残されてしまっていたりするのである。
壁の移動に時間を取られると、STR上昇薬の効果が切れ、追加で使用しなければならなくなる。これが繰り返されると、用意していたSTR上昇薬が底をついてしまうのだ。
しかも、このダンジョンは、モンスターのランクは余り高くないものの、数が多いことでレベル上げの名所になっていたので、ちょいちょい邪魔が入る。
鬱陶しいと感じることもあったが、それ以上に、これだけのギミックの先に何が封印されているのかの方が気になっていた。
それが例え、自分に全く縁のないものであったとしても、きっと満足できることだろう。
本音を言えば、新しいレシピやレア素材だと嬉しいな、とは思っていたが……。
「これで、最後の壁ってことは、いけるんじゃないか?」
空間を埋めていた壁のブロックは、ギミックの発動のために役目を終えて消えていた。残るのは、最後の凹みにぴたりとはまる形状のものだけだ。
ハルマは大きく息を吐き出すと、最後のピースを押し込んだ。
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