Ver.2/第4話

 魔王スキルの取得という、大きな課題をひとつクリアしたことで、ようやく落ち着いて日常に戻ることができた感じがしていた。

 第1回イベントの〈ゴブリン軍の進撃〉から、あまり間を空けずに〈魔王イベント〉が開催されたこともあり、常に何かに追われていた感覚があったのだが、次のイベントは発表されていないため、どことなくのんびりした雰囲気が漂う。 

 この日、ハルマは水の大陸のマァグラセ地方に出かけていた。

「今日こそは、パズルを解くぞ!」

〈魔王イベント〉の後編〈魔王城への挑戦〉が開催される直前、自身のスキルを成長させるために向かったダンジョンで、たまたま見つけたギミックを解明するためである。

 最初に見つけてから、何回か挑戦しているのだが、STRの要求値が高いことと、複雑な手順を構築しなければならないため、少しずつしか先に進めていなかったのである。

 今回は、STR上昇薬も豊富に用意してきた。手順の予習復習もばっちりである。何より、ログアウトしてからもあれこれパターンを研究してあるので、いける自信があった。


「「「「こんにちは!」」」」

 マァグラセ地方に直接転移し、目的のダンジョンに向かう途中、他のプレイヤーに挨拶された。

 特別珍しいことでもないので、ハルマも快く返してすれ違う。この時、決まってマリーも挨拶しているのだが、当然のことながら誰にも気づかれないため、むくれたマリーにちょっとしたイタズラをされるのも恒例になりつつあった。

「なんていうか、色々と思惑通りだな」

 すれ違ったプレイヤーのひとりは、背中に黒色の羽を生やしていた。また、別のプレイヤーはスカルヘルムにローブ姿という、不落魔王コスプレをしていたのである。

 こういうプレイヤーが、最近、増えてきた。

 実にありがたいことである。

 自分の知名度が上がることに対して得意気になるという意味ではなく、むしろ逆の意味で感謝していた。

 これだけあちこちで見かけることがあれば、いざ自分がズキンを使ったり、二刀流で戦ったりしても〈魔王城への挑戦〉で活躍した本人だとは思われないで済むだろう。

 ちなみに、一番隠すのが難しいユララは、少し離れた上空をついて来ている。このため、ハルマが移動する際、見晴らしの良好な平原などは避けることが益々増えていた。

 森の中に入ってしまえば、他のプレイヤーも少なく、視界を遮る物も多いので、かなり近くまで降りて来られるのだが、そもそもユララはぷかぷか浮かんでいるのが好きらしく、戦闘中以外は付かず離れずの距離感を保つことが多い。

 そうやって雪山を登り切り、通い慣れたダンジョン〈知恵と力が封じられし遺跡〉へと到着していた。

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