第30話
「おっきーい」
出てきた蜘蛛のぬいぐるみに、マリーは目を輝かせながら近寄っていくと、もふっとダイブした。
「これはこれはお嬢さん。あなたからはなつかしい匂いを感じますね」
「マリーが見えるのか?」
「わたし、こう見えても神の端くれですからね。ま、神のちからはほとんど封印されてしまっているので、今はただの蜘蛛のぬいぐるみですけど」
「神の端くれ……? ってことは、あの村にあったご神木のヌシか!? 魔物に騙されて蜘蛛にされたって聞いてたけど、蜘蛛は蜘蛛でも、ぬいぐるみなの!?」
「あ、あははは……。面目ない。その蜘蛛です。そういえば、お礼がまだでしたね。とはいっても、先ほども申しましたが、神のちからはほとんど封印されてしまっていまして……。ご神木が育てば取り戻せるのかもしれませんが、長いこと見守っていますが切り株のままですからね。しかも、あいつらから逃げる途中、足を失ってしまって……」
足が3本欠けているためバランスが悪いのか、体を地面に叩きつけるように頻繁に転んでいた。しかも、よくよく見ると体のアチコチにもほつれが目立つ。
「そういうことなら任せてくれ。足をくっつければいいんだろ?」
拾ってきた足を取り出す。
「なんと!? 直せるのですか?」
「任せてくれとは言ったが、直せるかはわからん。とりあえず、ここじゃダメっぽいから、俺の家まで来てくれよ」
転移アイテムで町に戻るのはさすがに目立つと判断する。
「わかりました。では、このままでは動くのに不便なので、連れて行っていただけませんでしょうか」
そういうと、蜘蛛のぬいぐるみはしゅるしゅると小さくなっていき、乗用車ほどもあった体は手のひらサイズにまで縮小された。しかし、体のバランスは極端に悪く、頭の部分だけが突出して大きく、目もかわいらしい。これなら虫嫌いのプレイヤーでも、飛んで逃げるほどではないだろう。
「ずいぶんと、キャラクターチックなかわいさになるんだな。俺の肩にでも乗ってくれ」
ハルマの差し出した手に乗り、肩に案内されると素直に移動する。
「しかし、大丈夫かな? ラフが戦えないとなると、戦闘は避けた方がいいな」
実のところ、ジャアクビーたちとの戦闘によってレベルが12まで上がったので、この辺のモンスターであれば、そこまで警戒する必要がなくなっていることにまだ気づいてない。と、同時に、一気にレベル10を通り過ぎてしまったので、救済措置用の振り直しアイテムも使えなくなっていることにずいぶん遅れて気づくのだった。
〈発見〉のスキルを駆使し、慎重に移動したこともあり、拠点に戻るのには時間がかかった。
「おー。ハルマ殿の自宅とは、この村にあったのですね」
「ああ。まだ村になってないけど、そのうち復興させるつもりなんだ。〈裁縫〉の職人設備はまだないから、しばらくここで待っていてくれないか? ラフの修理もしないといけないから、職人設備を買ってくるよ。俺の家の中なら、たぶん安全だと思うけど……。それとも、インベントリに入ってる? 入れるのか知らんけど」
「いや。わたし、ここで待たせていただきます。この村の雰囲気を、久しぶりにゆっくり堪能したいので」
それを聞いて、ハルマは少し申すわけなく思う。何しろ、村の面影と言えば、この家と切り株以外、全て撤去してしまったのだから……。
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