第29話
「チクチクチクチク……。鬱陶しいニャーー!!」
突然、ラフがキレたのだ。
ビックリしていると、ビックリのおかわりが追加された。
「え、えええぇぇぇ」
赤い光に包まれたかと思うと、見る見るうちにラフの体が大きくなっていき、中型犬ほどだったサイズがゾウ並みにまで膨れ上がったのである。
そうかと思ったら、思い切り息を吸い込むようにしてジャアクビーを飲み込んでしまう。
「ちょっ……」
何が起こったのか理解が追いつかないうちに、今度はペッと吐き出した。
吐き出されたジャアクビーの頭上には、各種様々なアイコンが表示されている。
「うわぁ……。デバフと状態異常のオンパレード。表示が追いついてないぞ」
見たところ、全てのステータスが下げられ、眠り、混乱、マヒ、封印、暗闇、スロウ、毒の状態異常がかけられていた。
対するラフも赤い光に身を包まれているところを見ると、バーサクの状態異常中らしい。
バーサク中は回りの指示を無視するようになり、回復もアイテム使用もできなくなる代わりにSTRが跳ね上がる。プレイヤーの場合はスキルや魔法の使用も制限され、防御系のコントロールも出来なくなるようだ。
ただ、状態異常ではあるが、デメリットが大きい分メリットも大きい。
特に、バーサク状態でなくとも高いSTRを持つ場合、メリットは大きくなる。つまり、ラフの一撃でジャアクビーは消滅させられる。という結果になる他ないのだった。
「ラフ、すごかったね!」
戦闘が終了し、ラフのバーサクも解けたことで巨大化も解除された。
「いやはや。お見苦しいところをお見せしてしまったにゃ」
「あれ、何?」
「我々ケット・シー族は、怒りで我を忘れると巨大化してしまう性質を持っているのにゃ。その時、飲み込んだ相手にかかっている魔法は消え、吐き出される時にあらゆる呪いがかけられるといわれているにゃ。ただ、これをしてしまうと吾輩の体に負担がかかってしまってパーツが壊れてしまうのにゃ。すまないがご主人、後で修理してほしいのにゃ」
「あ、はい」
あまりのことにハルマはしばし惚けてしまうが、理解しようと頭を働かせる。
「つまり、一定のダメージを受けるか何かでスイッチが入ってバーサクモードに入る。その時、初手で特定の相手なのかランダムな相手なのかわからないけど、敵を飲み込む。で、飲み込んだ相手にかかっていたバフなんかは消えて、吐き出す時にデバフと状態異常がかかる、と。あの感じだと、耐性が100%ないものは全部かかっちゃう感じだな。クエストボスがあんなに耐性ザルなわけないもんな」
ハルマの予想通り、本来ジャアクビーはレベル8のソロプレイヤー、ましてDEX極振りで勝てる相手ではない。
クエストの仕組み上、発生時期とパーティ人数によって出現するジャアクビーの数と強さに調整が入るため、ハルマが戦ったのは最弱レベルであった。それでもじゅうぶんすぎるほどに強敵となるはずだったのだが、これにはマリーによるサポートでマリオネットが参加することなど考慮されていない。そうでなければ勝つことはできなかっただろう。
運営側としたら、見つからずに終わるかもしれないと想定しつつ実装しているクエストのひとつであり、こんなに早くクリアされるとも思っていなかった。
ちらりとラフの状態を確認する。
強力な効果に相応しく、デメリットも大きいようだ。左腕はぶら下がり、立っているのもやっとという様子なので、両足とも無事ではなさそうだ。
破損してしまうと回復薬では戻らず、ステータスも減少してしまう。それでも戦わせ続けると完全に壊れてしまい、元に戻せなくなるだろう。
ラフをインベントリに仕舞おうと思ったが、そこでようやくクエスト中だったことを思い出す。
奥の木、根元の洞の部分をふさいでいた障害物が取り除かれ、中から声が聞こえてきたのだ。
「ジャアクビーたちをやっつけてくれたんですね。助かりました」
中性的な声とともに、ずるずると体を引きずって出てきたのは、足を途中から3本失った、乗用車ほどのサイズがありそうな大きな蜘蛛のぬいぐるみだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます